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漫画感想 / 呪術廻戦0

愛と呪いの物語

「これは持論だけどね 愛ほど歪んだ呪いはないよ」

乙骨憂太と祈本里香は、愛ゆえにお互いを“呪い合った”。呪いを解くというのが、この物語の主軸だ。
そしてそれは、五条悟と夏油傑の関係性にも当てはまる。これは、2つの呪いを解く物語だ。

乙骨憂太という特級呪術師

「僕は呪術高専で里香ちゃんの呪いを解きます」

呪いの子として登場した乙骨は、文字通り”呪われている“ふうに描かれた。物語が進んでいくうちに、”呪われた”のではなく、“呪った”と明かされるのが、この物語の面白いところだと思う。

誰も傷付けたくないから、外には出ないと言う乙骨に、五条悟が言った
「一人は寂しいよ?」
これは乙骨の術式“模倣(コピー)”の伏線だったのではないだろうか。
コピー能力は、他人が居ないと成立しない少しトリッキーな異能だ。誰かが居て、その誰かと関わって、初めてそれが己の異能だと知ることができる。
0では、乙骨の術式は“里香”となっていた。夏油が言った「底なしの呪力の塊」は、里香のものではなくて、乙骨自身のものだった。最高のミスリードだったと思う。

祈本里香の過去

5歳の時、母親が原因不明の急死。
小学校入学の2日前、父に登山に連れられ、共に行方不明となる。1週間後、山頂近くの避難小屋で、里香だけが保護される。父親はそのまま失踪。行方不明。
里香を引き取った父方の祖母は、自分の息子とその妻は里香によって殺害されたと強く思い込んでいた。
優太に渡した指輪は、祖母のタンスから勝手に持ち出した母の結婚指輪。
呪術廻戦0より

里香は両親からDVを受けていた可能性がある。自分を傷付けようとした相手を呪って、殺しているのではないだろうか。
父親が里香を連れて登山に行った理由は、父親の意思なら、心中目的も考えられると思う。けれど、里香には大人を操るような言動があったので、父親を殺すために山へ連れて行かれるように仕向けた可能性も考えられる。DVを受けて育ったのなら、乙骨以外の人間が嫌いという設定も辻褄が合うだろう。

「里香はこの6年が生きてる時より幸せだったよ」

この言葉が全てだと思った。里香は生前、家族から愛されたことがなかった。乙骨との出会いは、里香にとって世界の全てだったんだろう。

夏油傑という最悪の呪詛師

2006年春。五条悟と夏油傑が、まだ学生だった頃。
「弱者生存」「呪術は非術師を守るためにある」という信念を掲げていた夏油は、天内理子の死で、己の信念に疑問を抱きはじめた。灰原雄の死、任務で訪れた村で、呪力を持っているというただそれだけの理由で、酷い扱いを受けていた美々子と奈々子を見て、”本音“を選んだ。100を超える非術師を呪殺し、呪術高専を去った。
夏油の性根というか、根本的なところは変わっていないと思う。夏油にとって、守るべきものが、弱者である非術師から、強者であるが弱者から虐げられている呪術師に変わっただけだ。

「非術師を皆殺しにして 呪術師だけの世界を作るんだ」

これ以上、仲間に傷付いてほしくない。死なせたくない。ただそれだけだったんだと思う。心が壊れて、歪んでしまった。そうすることでしか、生きることができなかったんだろう。

最強の呪術師と最悪の呪詛師

五条と夏油の対比。親友であり、2人で“最強”だった2人の物語は、0巻でトゥルーエンドを迎えたと思う。

「この世界では私は心の底から笑えなかった」

夏油は五条を呪おうとした。五条はそれを分かって、言葉を選んだ。
五条が言った最期の言葉は、「お前は僕の親友だよ、たった一人のね」の可能性が高いと思う。心の底から笑えなかったと言った夏油は、五条の言葉で確かに笑った。
2人の友情は確かなもので、2人の青い春は、2人で“最強”と描かれたあの日々は、確かに在った。この最期は、その証だと思う。

「最期くらい呪いの言葉を吐けよ」

友情も“愛”だ。2つの物語は、呪いを解き、呪うことなく終わった。これは、愛と呪いの物語だ。

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