見出し画像

NECが「働きがい改革」の先に目指す、ウェルビーイングの在り方/第10回「みんなで幸せ研」トップインタビュー

「幸せ経営」や「ウェルビーイング経営」について、各社のトップ・経営層の皆さんはどのように考えているのでしょうか。

5月16日、『「NECで働く」×「幸せ」を考えよう!』と題した、NEC社員に向けた公開対談が行われました。

登壇者は、日本電気株式会社(以下、NEC)取締役 執行役員常務兼CHROを務める松倉肇さんと、「みんなで幸せでい続ける経営研究会」共同代表で慶應義塾大学大学院にて幸福学の研究を行う前野隆司教授。モデレータはNECマネジメントパートナー キャリアコーチの吉田万貴子さんです。

会場は、2021年10月にNEC本社にオープンしたばかりの共創空間『FIELD』。この場所に込められた想いや、NECが考えるウェルビーイングの在り方とは? 本記事では、対談の内容をお届けします。

「新しいもの好き」な社風から、社員食堂がリニューアル

NEC CHRO松倉さん(写真右)、幸せ研 前野教授(写真中央)、NECマネジメントパートナー 吉田さん(写真左)

吉田:NECおよびNEC社員に対して、前野先生はどのようなイメージをお持ちですか?

前野:私は社会人向けの大学院で働いていますが、NECの方は非常に多いです。基本的に真面目で、ちょっと地味だけど、新しいことは好き。そんな印象がありますね。

松倉:よく見ていただいていますね(笑)。「新しいもの好き」はまさにです。

私自身も新しいものが好きで、つい飛びついてしまうところがありますが、若い人たちの提案の中には「センスがいいな」と思うものもたくさんあります。それらをどんどん取り込んでいくことが、新しい働き方につながるのだろうと思いますね。

前野:さまざまな人の声を聞くことで、多様なアイデアが生まるのは間違いないですよね。若い人の声を聞かない会社は意外と多いように感じていますが、それができているのは素晴らしいと思います。

松倉:実は本日の対談場所である共創空間『FIELD』も、若手の意見から生まれています。

全社を通じたカルチャー変革を行なう中で、各部門の若手から提案を募る試みを行ったのですが、そこであるチームが出してくれた「社食のイメージを変える」というコンセプトが、『FIELD』の基になっています。

『FIELD』は、従来の社員食堂をリニューアルし、お客さまやパートナーの皆さんをはじめ社内外のメンバーが交流し、イノベーションを生み出す場を生み出すことを目的とした空間です。提案したメンバーは日本中の有名な社食を周った上で、ベストな社員食堂として提案をしてくれました。まだ日本企業では珍しい取り組みでもあり、「ぜひやってみよう」となりましたね。

前野:先ほどメニューを拝見しましたが、社食ではなくレストランのメニューですよね。おしゃれだし、細かいところまで考えられているなと思いました。

松倉:ありがとうございます。対談が終わったら、ぜひコーヒーでも飲んで行ってください。

松倉:現状の『FIELD』はコンセプトが先行していて、これからコンセプトの実現に向けてみんなが知恵を絞るタイミングです。ですが、すでに女性や若い世代の利用比率が高く、この場所から新しい何かが生まれそうな予感がしています。

コロナ禍でオフィスに来る意味が変わり、これからのワークプレイスの価値は「コミュニケーションを取ること」「イノベーションを起こすこと」の二つにあると考えていますので、『FIELD』がいろいろな人たちと会う意義を実感できる場所になるといいなと思っています。これからが楽しみですね。

前野:コロナ後を見据えているのですね。おっしゃる通り、オフィスに行くのは「仕事をするため」から、「多様な人と触れ合い、イノベーションを起こすため」という目的に変わっていくと思います。

NECの行動基準『Code of Values』と幸福の関係性

吉田:2021年度からNECグループが進めている『Smart Work2.0』は、どのような取り組みでしょうか?

松倉:そもそもコロナ禍以前に『Smart Work1.0』を掲げ、働きやすい環境作りを主軸に、テレワークを推進してきました。そのベースがあったことで、コロナ禍でもみんながスムーズにテレワークに移行できたと思います。

そこから『Smart Work2.0』に進んだ今は、「働きがいを持って、多様な人が集まるNECのみんなでイノベーションを起こせる働き方」を目指しています。中期経営計画でも「グローバルでイノベーティブな会社を目指す」と謳っていますが、そのために必要な行動基準が2018年に策定した『Code of Values』です。

『Code of Values』で定められた5つの行動基準

松倉:この『Code of Values』を実践することで、『Smart Work2.0』を実現する。それが今のNECの根底にある考え方です。社員一人一人がもっと面白い仕事を手掛けられる状態をつくることで、NECをもっと面白い場にしていきたいと思っています。

前野:働き方改革をさらに進め、「働きがい改革」をやろうとしているのですね。

松倉:おっしゃる通りです。『Code of Values』は人事評価の軸にもなっている、NECの大切なコンセプトです。NECが目指す未来を実現するための「従業員一人一人がとるべき行動」を役員の間で議論して作られました。

『Code of Values』を土台に、みんなが自律的に成長し、その結果としてNECの中で働く誇りが生まれ、働きがいに結び付き、個人が成長し、さらに会社も大きく成長できる。そんな思いが込められています。

『Code of Values』の実践による働きがいの実現のイメージ

吉田:幸福学の視点から見て、『Code of Values』は幸福とどのような関係がありそうでしょうか?

前野:幸せにつながる要素はたくさん入っていますよね。「視線は外向き、未来を見通すように」「戦略を示せるように」は、大きく世界を見ること。視野の広い人は幸福度が高く、視野の狭い人は幸福度が低い傾向がありますから、実現できると幸せになりやすいと思います。

あとは、「全員が成長できるように」も大事なポイントです。より成長したいと思っている人は幸福度が高く、「自分はこんなものだろう」とマインドを固定してしまう人は幸福度が低くなりやすいですから。

そして、受動的な人よりも自律的に働く人の方が幸福度は高いので、「自律的な成長」というのも重要です。

幸せな人は生産性や創造性が高く、欠勤率や離職率が低く、健康長寿であることが研究から明らかになっていますから、働きがいも得やすいと思いますね。

松倉:ありがとうございます。これまでは社内で自画自賛していたのですが、幸福学の先生に認めていただき、安心しました(笑)

お互いのライフを理解し合う重要性

松倉:ただ、『Code of Values』を全て実践できている人は役員を含め、ほとんどいません。一つ一つ意識し、地道に実行を重ねる必要があると思っていますが、『Code of Values』策定から5年がたち、みんなの中にだいぶ浸透してきたのを感じています。

1on1や自己紹介の場で「『Code of Values』のこれは得意だけど、これは苦手」といった会話が増えていることがとてもうれしいですね。

前野:徳島県の西精工という、ネジの会社を思い出しました。西精工では従業員約250人が毎朝の朝礼で1時間、理念について話し合っているそうです。繰り返し考えることで浸透し、理解が深まり、さらに上を目指せるのでしょうね。

松倉:それでいうと、実は2020年4月に自分たちのパーパスをまとめた『NEC Way』を発表した際、当時の社長の新野(隆)からは「みんなで暗唱するようなことはしないでほしい」と言われていました。「みんなが本当に腹落ちして、実践できるようなやり方を考えてほしい」ということで、悩んだ末に行ったのが、「連鎖ミーティング」です。

前野:連鎖ミーティング、ですか?

松倉:まずは『NEC Way』に対して『My Way』は何なのか、自分の志ややりたいことをラウンドテーブルで話し合い、『NEC Way』と『My Way』が重なる部分を探します。この部分が大きいほどやりがいを感じますが、必ずしもピタッと一致しなくてもいいと考えています。

『NEC Way』の構成図(NECウェブページより

松倉:この重なり具合を、社長は役員と、役員は事業部長と、というように繰り返しながらみんなでシェアすることが「連鎖ミーティング」の目的でした。そうやって少しずつ、『NEC Way』や『Code of Values』といったコンセプトが浸透してきたかなと思います。

その際、思わぬ副次効果もありました。『My Way』を語ろうとすると、ライフチャートなどを使って自分の人生も語ることになるんですよね。気難しそうな顔をしていた上司が、実は学生時代にロックバンドに熱中していたことがわかったりする。

そうやってみんなのバックグラウンドが見えると、「なぜこの人はこういう考え方をするのか」を理解することにもつながります。結果的に、チームアップに非常に役立ちました。

前野:それはまさに幸せな会社の基本ですね。最近ではライフに介入しない方針の会社も増えていますし、プライベートと仕事を混同してはいけないのですが、ライフのことも理解し合っている仲間と仕事をする方が幸せではあります。

プライベートに介入してもハラスメントにならないような良い関係性を作ることが前提ですが、そういったスタンスはこれからより求められていくように思いますね。

松倉:心理的安全性が注目されていますが、お互いをよく知ることで、心理的安全性は自然と担保されるような気もしています。とっつきにくい人であっても、実はお茶目で面白い人だとわかれば、心理的な壁は和らぎますよね。

仕事の幸せは「やりたいことを思い切りやっているとき」

吉田:松倉さん自身は「仕事の幸せ」をどういう場面で感じますか?

松倉:私は若い頃からやりたい放題やってきたのですが、振り返ってみても、やりたいことを思い切りやっているときが幸せだったなと思います。

若手の頃から「議事録書きます!」と手を挙げ、そこに自分の意図を入れ込んだり、「次の会議のアジェンダ作ります!」と申し出て、その中に自分のやりたいことを折り込んで会議を設定したりと、結構ずるいこともやってきましたね(笑)

前野:下っ端でも、工夫次第でリーダーのような動きもできるということですね。他の従業員の方が当時の松倉さんのようなことをやってもいいということでしょうか?

松倉:はい。ただ、怒られた時はご自身の責任でお願いしますね(笑)

前野:松倉さんはこれまでに、例えばどのような新しい仕事をされたのでしょう?

松倉:新しい会社を作る機会があった際、本来であれば役員クラスが決めるべき話だったのですが、どうにか自分も提案をしようとしたことがありました。

当時の部長を観察していると、朝は余裕がありそうだったので、朝8時前に出勤し、毎朝のように「こういうことをやりませんか?」と提案をし続けました。そのうち「じゃあ一緒にシリコンバレーに行こう」という話になり、現地でいくつか会社を視察し、「ここに投資してみませんか?」とだんだん実現に向けて追い込んでいく。例えば、そんな動きをしていましたね。

前野:お話を伺っていると、松倉さんは仕事を先取りされていますよね。自分で仕事を先取りしていると、嫌な仕事が回って来にくいじゃないですか。自分で仕事を作ることは、好きなことをやることにもつながりますよね。

さらに、やらされ仕事ではなく、主体的にやりたい仕事を多くやれるようになるわけですから、幸福にもなりやすい。無意識なのでしょうけど、とても良い循環を作っているなと思います。

オンラインと対面を組み合わせた、新しい働き方

吉田:コロナ禍でリモートワークが普及しましたが、対面でのコミュニケーションと幸福にはどのような関係性があるのでしょうか?

前野:パーソル総研と一緒に「リモートワークが幸せにどう影響するか」という調査をしたところ、幸せになった人と不幸せになった人の双方がいました。

幸せになった人は、通勤をはじめ無駄な時間が削減でき、家庭との両立もしやすく、働き方の自由度も上がったことが影響しています。

一方で不幸せになった人の要因は、やはり孤独感です。「家で仕事をして誰とも会話をしなかった」「オンライン会議が終わると通信が切れるので、オフィスにいた頃と比べて雑談ができない」などですね。

特に幸福度が下がったのは、20代です。新卒1〜2年目の人は入社してからずっとオンラインで、人間関係が築けず、会社に貢献している意識も持ちにくい。そんな切実な問題があるんですね。

前野:だからこそ、オンラインでのコミュニケーションを増やすと同時に、対面でつながる機会を増やすことも必要です。

20代の若手から50〜60代のベテランまで、年齢に関係なくワイワイ知り合う場作りの重要性は、これから増していくのではないでしょうか。特に感性や感情が伴う会話は、オンラインよりも対面の方が効果的です。

松倉:全く同感です。『Smart Work2.0』でも出社とリモートワークを組み合わせたハイブリッドワークを推奨していますが、オンラインと対面にはそれぞれの良さがあり、それらを最適に組み合わせ、生産性を上げていく方法はチームでいくらでも議論ができると思っています。

そうやって話し合い、工夫し、実践することで新しい働き方ができていく。それは『Smart Work2.0』の核でもあります。

AIチャットボットの提案により、幸福度が上昇

吉田:仕事の幸福度を上げる目的で、2021年度は前野先生の研究室とNECが共同で、AIチャットボットを使ったウェルビーイング向上施策の実証をしましたね。

松倉:前野先生と相談しながらアルゴリズムを作り、AIチャットボットがウェルビーイングを高めるちょっとした提案をしてくれる仕組みを作りました。

AIチャットボットによる提案のイメージ

松倉:限られた人数での実証でしたが、結果は驚きでしたね。AIチャットボットの提案通り行動した人の幸福度は全体的に向上し、特にもともと幸福度が低かった人の上がり幅が大きかったんです。

まだ実証の段階ですが、チームで新しい働き方を模索する中で、AIチャットボットが強力なサポーターになるのではと期待しています。

前野:楽しい研究でしたね。AIチャットボットのアドバイスは幸せの研究結果に基づいたものですが、ちょっとしたフレーズやタイミングの違いによって効果が変わることもわかり、本当に勉強になりました。

人間から言われるとイラっとすることも、チャットボットだと許せるというか、そういう効果もあったのかなと思います。

さまざまなデータと幸せの関係性は、複合的な解析の余地がまだまだあります。人間とAIの共存は重要なテーマですし、きっとGAFAも参入してくるでしょうから、ぜひNECにはいち早く「チャットボットで幸せに働く」サービスを実用化していただきたいですね。

松倉:当社はテクノロジーの会社です。チームアップや人々の幸福をサポートするための仕事をしたい想いは強くありますので、まずは当社で実証実験を重ね、自信を持っておすすめできるものにしたいですね。

体と心の健康に加え、社会的健康が重要

吉田:最後にウェルビーイング経営の可能性と未来について、お考えを伺いたいです。まずは松倉さん、いかがでしょう?

松倉:ウェルビーイングを考えた時に、体と心の健康に加え、社会的健康が大事なのではと思います。体と心が元気で、社会やチームの中にいる時に、自分が幸せだと思えること。この3つがそろって初めて、満たされた状態になれるのではないでしょうか。

その前提があるからこそ元気に働くことができ、生産性や創造性が上がり、自分のやりたいことをガンガンやるぞ!と積極的になれる。その結果として、みんなが成長できると思います。NECとして、そういう大きなサイクルをつくっていきたいですね。

前野:ウェルビーイングは全ての産業が実現すべきことだと思っています。社員が幸せになるのはもちろん、その社員が作る製品もまた、人々のウェルビーイングに資するものであるべきです。

そういう意味では、個人の健康と幸せだけではなく、まさに社会的な健康や幸せを考えることが大事です。この点に、私はNECさんをはじめ、日本企業に大きな期待を寄せています。

正直、アメリカの企業の多くは金儲けが第一です。そのために幸せも大事だと考える。でも、日本企業は逆です。みんながより幸せになることを徹底的に考えた結果、利益が上がるという考え方をする経営者の方はとても多いですよね。この順番の違いが、次の時代を変えていくのではと思っています。

インターネットが登場してからしばらくはアメリカ企業が強かったですが、きめ細かく人々のウェルビーイングを考える時代は、日本企業が強くなるのではと思います。「昔はGAFAだったけど、今はNECだよね」と50年後に言われるような未来に向けて、ぜひ頑張っていただきたいです。

質疑応答1. 幸せに働く価値を組織に理解してもらうには?

参加者からの質問1
まだまだ「幸せに働く」ことが社会で理解されていないように感じています。幸せに働くことの価値を組織に理解させ、行動変容に移してもらうために、個人は組織にどのような働きかけをしたらいいでしょうか?

前野:今は「幸せに働く方がいい」という新しい考え方を理解している人と、「つらくても根性で働くべきだ」という古い考えのままの人と、二分化されています。

ただ、「たとえつらくても仕事をすることが大事だ」という考え方が間違っていることは、科学的に明らかです。

「幸せな社員は、不幸せな社員よりも生産性が1.3倍、創造性が3倍高い」
「幸せな社員の方が出世が早く、欠勤率や離職率が低い」
「幸せな人は健康で長寿である」

こうした事実が世界中の研究で分かっていますから、科学的な根拠を基に説明するのが一番だと思います。実際に、そうやって説明し、理解してもらえなかったことは一度もありません。

質疑応答2. 「褒める」と「幸せ」の関係性とは?

参加者からの質問2
「褒める」と「幸せ」の関係性について教えてください。

前野:まず「褒める」には、「結果を評価する」と「経過をエンカレッジする(勇気付ける)」の双方の意味が含まれています。重要なのは後者です。

例えば子どものテスト結果を褒める時、「100点で偉かったね」と言うよりも、「100点を取るだなんて頑張ったんだね」と、経過を褒めた方が成績は伸びる傾向にあることがわかっています。

結果に着目すると、高得点の時にしか褒められませんし、結果として子どもも100点を出すことばかりに集中してしまう。一方、経過に着目すると、80点でも50点でも、褒める余地が残りますよね。

前野:そして、それが幸せにどう影響するか。まず、褒められると「よしやるぞ!」と、主体的になれます。先ほど申し上げた通り、主体的に働く人は幸せになりやすく、生産性や創造性も上がりますから、幸せに仕事ができますよね。

逆を想像すると、よりわかりやすいかもしれません。叱られると、しゅんとして、心がストレスを受けますよね。ストレスは幸福度を下げ、その状態が続くと寿命が10年も短くなると言われています。褒める方が幸せにつながるのは明らかですよね。

松倉:私は褒められるとすぐ木に登ってしまう単純なタイプなので、自分の体験談からも褒めた方がいいというのは腑に落ちます(笑)

ただ、私も含め、日本人は褒めるのがあまり上手じゃないのかなと思います。そういう自覚がある人はなおさら、褒める癖を付ける必要があるように思いますね。「この資料いいね」とメールにちょっと書いてみるなど、やっていくうちに身に付くような気がします。

特に私はみんなの前で人を褒めるのが苦手で。意識的にやろうと思い、今度総務のメンバー全員が集まる機会があるので、そこでみんなのことを褒めまくろうとちょうど思っていたところでした。総務メンバーにはネタバレになってしまいましたね(笑)

前野:僕は褒めるというよりは、エンカレッジが重要だと思っています。「ありがとう」と感謝を伝えたり、「頑張っているね」と声をかけたりすることで、相手をエンカレッジし、認めることが大切です。

松倉:おっしゃる通りだと思います。「仕事をしていて、どういう時にうれしいと思う?」とメンバーに聞いたことがあるのですが、「お客さまに褒められた」「チームの人から感謝された」といった声がたくさん出てきました。

前野:逆に言うと、本人の命に関わる危険に直面したときなど安全管理以外の場面で叱る必要はありません。たとえ結果がダメだったとしても、経過に着目し、目標を達成するにはどうすればいいかを一緒に考えればいいわけです。ネガティブなフィードバックをなくしても、会社は回ると個人的には思いますね。

質疑応答3.モチベーションが下がったとき、どうしたらいい?

参加者からの質問3
モチベーションが下がってしまう時、お二人はどのようにコントロールしていますか?

松倉:私は楽天的な性格なので、駄目な時は寝ます(笑)。起きると結構元気になっているんですよ。メールなんかも、書いた日は送信せずに翌朝読んで、文章を全部書き換えることがよくあります。調子が悪いときに一旦寝るのはおすすめですね。

前野:私自身は好きな研究室で、好きな人たちと会うようになって、モチベーションが下がることはなくなりました。

ただ一般論としては、モチベーションが下がっている時に頑張るのは、自己犠牲的になりがちで余計ストレスが溜まります。精神医学では認知行動療法といいますが、認知を変えてから行動する方が有効です

その際に大切なのは、モチベーションが下がっている自分をよく見て、リラックスすること。仕事から離れて温泉に行く、寝る、お酒を飲む、友達と過ごすなど、何でもいいのでリラックスして、問題から距離を置きましょう。そうすることで、悩んでいたことを整理した上で、行動に移せるようになります。

そういう意味では、一旦寝て朝起きて行動するのは理にかなった方法ですね。

松倉:なんとなくの体感でやっているだけでしたが、正解だったのですね。

前野:さすがです。優秀な方は幸福学を知らずとも実践していることが多いんですよ。私の本を読んで「全部当てはまっています!」という経営者の方はたくさんいますね。

質疑応答4. 幸福度を上げる努力、組織と個人のどちらが大きい?

参加者からの質問4
幸福度を上げるために会社や組織が努力すべきことと、個人が努力すべきこと、どちらが大きいでしょうか?また、それぞれどんなことが求められると思いますか?

松倉:私は一人一人がベストを尽くせるように、会社として最大限の環境を作りたいと思っています。でも、個人が幸せになるためには、やはり本人の努力が大きいと思うんです。

どれだけ良い環境があったとしても、個人が本気で「これをやるぞ」と思えない限り、幸せにはなれない。会社はできる限り努力しますが、最終的には個人次第ですから、みんなには自分がやりたいことをどんどんやってほしいと思います。たとえ会社がついてこなくても、やっているうちに風向きが変わることだってありますからね。

前野:おっしゃる通りですね。これからの時代は、社員が幸せに働くためのベースを整えることが会社の義務になると思っています。なぜなら、社員が幸せでなければ、生産性や創造性、健康が損なわれるからです。

ただし、幸せになるのはあくまで個人です。主体的な人の方が幸福度は高いことを考えると、「会社が幸せにしてくれるだろう」という発想では、幸せは遠のくように思えます。

面白い仕事をワクワクしながら自分で取りに行って、みんなと力を合わせて新しいことにチャレンジし、失敗したらみんなで支え合い、一丸となって再度取り組む。それが幸せな働き方であり、そういう働き方ができるベースを作るのは企業ですが、そこで幸せになるのは皆さん自身です。

質疑応答5. 「働く幸せ」と「働く結果として幸せ」の考え方について

参加者からの質問5
「働く=幸せ」という考え方と、「働く結果として幸せ」という考え方があると思います。お二人はどう考えていますか?

前野:「働く結果として幸せ」という考え方が「仕事が幸せかどうかは関係なく、仕事の結果としておいしいものを食べたり週末に遊んだりすることが幸せ」といったものだとすると、幸せの研究者としては半分正解というところでしょうか。

稼いだお金で楽しむことも大切ですが、これからは「働く幸せ」が必要な時代です。先ほどもお話しましたが、「仕事はお金をもらうための苦しいもので、仕方なく頑張る」という考え方では、生産性も創造性も下がり、寿命も縮み、悪いことだらけです。

仕事自体が幸せであること、つまりはやりがいを感じ、周りのみんなと働くことが楽しいと感じられることの重要性はこれから増していくでしょう。

先ほどご紹介した徳島県の西精工では、「月曜日に会社へ行きたいですか?」という質問に、9割の社員が「行きたい」と答えたそうですが、この状態が高い生産性や創造性を生み出します。

「働いた結果として、お金を得て週末に幸せになる」というのは従来の考え方であり、変えていく必要があるのではないでしょうか。「働くこと自体が幸せ」であり、「得たお金で遊ぶ時間も幸せ」な状態がベストだと思います。

皆さんに考えていただきたいのは、「働いているとき、どういう場面でワクワクするか」「誰と働いている時に、一緒に仕事ができてよかったと思うか」ということ。たくさん考えて、自分にとっての「働く幸せ」を見つけていただきたいですね。

松倉:同感です。私は今年のゴールデンウィークに近所でバーベキューをして、自然の中で寝転がっている時間にとても幸せを感じました。稼いだお金でリラックスする時間を過ごす楽しみはよくわかります。

でも、多くの時間を私たちは仕事に使っているのであり、この時間を幸せに感じられないのは残念だと私は思います。

仕事の時間に自分のやりたいこと、つまりは『My Way』を、NECという場で実現する。大きいことでも小さいことでもいいので、NECの中で自分がやりたいことをどんどん広げて、一人ではできないことは周りの人を巻き込んで、やってみてほしい。達成できた時、きっと働く幸せを感じられるはずです。

登壇者プロフィール

日本電気株式会社 取締役 執行役員常務 兼 CHRO
松倉肇さん(写真右)

1985年日本電気株式会社(以下、NEC)入社。マーケティング企画本部長、経営企画本部長などを経て、NECマネジメントパートナー代表取締役執行役員社長に就任。NECに帰任後、取締役執行役員常務兼CSO、取締役執行役員常務兼CSO兼CHROを経て、2019年4月より現職

「みんなで幸せでい続ける経営研究会」共同代表・慶應義塾大学大学院 
前野隆司教授(写真中央)

慶應義塾大学大学院システムデザインマネジメント研究科教授。研究分野は幸福学、感動学、共感学、イノベーション教育、コミュニティデザインなど。『幸せのメカニズム』『幸せの日本論』など著書多数

NECマネジメントパートナー株式会社 人材開発サービス事業部 キャリアコーチ
吉田万貴子さん(写真左)

日本電気株式会社 中央研究所に入社、ネットワーク関連技術、ソリューションの研究開発に従事。2020年よりプロコーチ資格を取得し、現職

文・構成・編集・撮影/天野夏海

この記事が参加している募集

仕事について話そう

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?