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13日目:なんの変哲もない帰り道

フェネック文章力向上月間
Day13 忘れられない瞬間


覚えておいてほしいことはすぐ忘れてしまうのに、なぜこんな場面を、というふとした瞬間ばかり覚えていることがたまにある。
私にとってその最たる瞬間は、幼稚園のバスからの帰り道だ。


おそらく五歳くらいの頃だったと思う。
幼稚園のバスを降りた私は、母親に連れられて家路に着いた。
そのときの道路は茶色や黄色の落ち葉で彩られていて、その上をサクサク踏みながら歩いていた。
見上げると、秋特有の高い空が澄んでいて、それもまた美しかったのを鮮明に覚えている。

このとき、ふと、私はこの光景を一生忘れないだろうな、と五歳児ながらに感じた。
もちろん、なんの根拠もない。けれど、この瞬間はずっと私と共にあるのだと、そのときの私は悟ったのだった。


このエピソードに、それ以上のこともそれ以下のこともない。
本当に、たったこれだけの話なのだ。
なのに、そのときのことを本当に今でも覚えているんだから、なんとも不思議なものだ。

それから、私は落ち葉を見るたびに、否、そうでなくても不意に、あの日の帰り道を思い出す。そこに若干の郷愁を含みながら。

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