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下手な笑顔と夫の話

笑うのが苦手だ。
それは写真に撮られるときの笑顔もそうだし、人と話しているときの笑顔も下手である。


親からも元彼からもずっと「笑わない方がいい」と言われてきた。
そんな話を成人式の前撮りのときにポロッとカメラマンへしたところ、気の毒がられたのか「頑張っていい笑顔の写真撮りますからね!」と張り切られてしまった。
私としては「だから笑顔を求めないでね」という意味だったのだが、世の中にはおそらく「笑顔=素敵なもの」という方程式が根強く蔓延っているのだろう。

自分としては、やはり笑わない方が造形的にはマシなんだろうと思う。
笑うとガタガタの歯並びが見えるし、目も小さくなってしまう。
だが夫は「笑った顔の方がかわいい」と言う。
彼は、痩せて若かった頃の私より、今の太った私の方を「健康的でいい」と本気で言う男だ。きっと私と美醜感覚がずれているのだろう。
だが、それでも今の私を肯定してくれていることに悪い気はしない。


人と会話するときも、いつも上手く笑えない。
話す内容を考えるのに必死で、表情筋にまで意識が追いついていかない。
それでも時々、不機嫌だと思われないよう口角を上げてみたりするのだが、鏡を見ずともわかるほどその動きはぎこちない。

一体私と話している友人たちからはどう見えているのだろうか、と時々思うことがある。
正直、ちょっと聞くのが怖い。


確かに、笑顔が素敵な人は強い。
私の夫も笑顔がとても可愛くて、それの前ではたとえ不満があっても「まあいっか」という気持ちにさせられる。
持たざる者である私は、一発逆転の武器を持っている夫のことを妬ましく感じることもある。

夫に対抗するべく魅力的な笑顔を身につけようと鏡に向かい、試しににっこり笑ってみる。
鏡の向こうのぎこちない笑顔に内心苦笑しながら、無理に笑わなくてもいっか、と秒速で意見を変えるのであった。

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