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【小説】勾配のゆるやかな坂道

【小説】勾配のゆるやかな坂道

 アキラは、文庫本のページをめくるみたいに私の髪を触る。ページをめくって目に飛び込んでくる次の一文が、心をおおう膜のようなものを取り払ってくれると信じてるみたいに。
 でも、私の髪にそんな力があるわけもなくて、彼に髪を触られると、いつも切なくなる。カラーリングとブリーチで傷んだ私の髪にあるのは枝毛ぐらいのもので、彼の心に触れるにはあまりにも無力だ。いつからか、髪を触るとき、彼は目をつぶるようになっ

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【小説】雨のただなか

【小説】雨のただなか

 太陽には居場所を与えないという負けん気で、雨雲が、目一杯体を伸ばして空に居座っている。
 コンビニの軒では今日の雨は防げなかった。ズボンの裾が、随分濡れた。ジャケットの裾も、幾分濡れた。まだ小雨だった頃から、私はコンビニの前に立ち続けている。
 こうやって、コンビニの前に一人で立つようになってから、どれぐらいの月日が経っただろうか。もう、ここで見られるものはほとんど見たはずだ。
 私がいるのは大

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