見出し画像

俺に起業の相談をするな

最近よく聞かれるので改めて言っておく。俺に起業の相談をするな。一切受けつけていない。突然事業のアイデアを言われても俺は助けないし助けられない。

俺が相手にするのはUberEatsのユーザーと、昔から一緒に仕事をしている人の紹介だけだ。もうすぐ五十路が見えているというのに新たな人間関係を構築しようとするほど俺は暇でも気長でもない。

相談されるとそれだけで僕の頭脳が無駄に消費される。俺に相談するというのは基本的に泥棒である。俺は何か聞いたら自分でも意識しないうちに気の利いた解決策を考えてしまう。俺にとって俺の頭脳は商売道具だから、俺に起業の相談をするというのはタダでイラストレーターに絵を描けと言ってるのと同じだ。

相談を受けなくていいようにたくさん記事を書いてるし本も書いている。俺の情報を一方的に発信するのは構わないのだが、誰かのへんな考えを聞いて時間を浪費したくない。時間は限られているのだ。

まず、起業の相談をする前に、少なくとも一年で一億円くらいの売り上げをつくり、コンスタントに二千万円くらいの税引き前利益を作れ。話はそれからだ。

ちなみに銀行は年商10億未満の会社など会社扱いしない。個人商店である。
そのくらいの規模になったら僕の古くからの知人とも知り合えるくらいの人脈は構築できているだろうから、そのとき改めて事業の相談をしてくれるなら喜んで聞く。年商10憶くらいまでは自力でやってほしい。

もちろんそこまで自力でできたんなら清水などに聞く必要はないというのもオッケーだ。お互い無駄な時間を省けるというわけだ。

なぜここまで頑ななのかというと、俺はこれまで、さんざん人の相談に乗ってきたからだ。そしてもうその仕事には飽きた。仕事ならまだいいが、仕事にすらならないことのほうが多い。まさに泥棒である。

もう一つは、起業にはある種の素質が必要で、この素質は持っている人は物心ついた時から持っているが、持ってない人がこれを獲得するのに莫大な努力と期間を要するからだ。

その素質とは、「現実と向き合う心」である。事業とは、徹底的に現実であり、残酷なほどの事実と真正面から向き合う必要がある。その中には自分自身への批判ももちろん含まれる。というよりも、それが九割だ。自分がいかにダメでクズでどうしようもない人間なのか受け止められる人だけが真の起業家になれる。

会社を作るというのは紙一枚でできる。簡単だ。誰でもできる。どんなに才能がない人でも社長にはなれる。問題は、そのはるか手前だ。

名門大学を出ても、一流企業で働いた経験があっても、社長となったとたんにとんでもなく卑劣で嘘つきになる人はゴマンといる。現実と向き合うのは本当につらいことなのだ。ストレスで胃がやられたり、血尿が出たりすることもある。

人間として、友達としてはつきあえるけど社長として付き合うのは無理、という人が大半なのだ。嘘をつく社長はなぜ嘘をつくのか。頭が悪いからである。

実は人は社長になると普段よりも頭が悪くなる。考えるべきことが膨大になって、ひとつひとつの判断の精度が下がるのだ。しかし一つ一つの判断の重要度は高いままのため、判断ミスをすると倒産に直結する。

まず大前提として、頭が悪い人は社長になれない。

俺には、親友がいた。東浩紀さんと初めて知り合ったイベントで、鈴木健の主催で無敵会議という一種のアイデアソンを行った。集められたのは未踏スパクリばかり十数名。親友は未踏出身ではなかったが、俺の友だちだからついてきた。アイデアソンの結果は俺がまさかの二位、国家から天才プログラマーという称号を与えられた集団を向こうに回して優勝したのは、その親友だった。

そいつはサラリーマンとして極めて有能な男で、日本でブームをしかけてその業界では有名人だった。

そんな男がある日、社長になった。

そいつは社長になってしばらくすると、俺に嘘ばかりつくようになった。クライアントには清水が遅れているといい、俺にはクライアントの発注が遅れているとその場しのぎの嘘ばかりついていた。クライアントと俺が話せば秒でバレる嘘をつくのである。そんなことを繰り返していたら、あっという間に会社は倒産した。

倒産寸前に相談を受けて、「キャッシュフロー表を見せろ」と言うと、「税理士のところにある」という。俺は衝撃だった。

零細企業の社長にとって、キャッシュフロー表は仏教徒の仏壇のようなものだ。

毎日どのくらいのお金が入って、そして出ていくか。事細かに記された資料である。どんな事業もまずキャッシュフロー表から作るくらい重要なものだ。ある夜、キャッシュフローが不安で目覚めてしまって、何度も検算し、ほっとしてまた寝ることを繰り返すほど、キャッシュフローは重要なのだ。

ここから先は

621字

¥ 1,000