見出し画像

過食症のメカニズムと薬

昔、過食症について調べていたときにまとめていたメモを見つけた。

(恐らくどこか病院のHPや記事の引用だが、現在ソースが見当たらないので悩んでいる方の参考になれればと思い、参照元無しで掲載します。素人のメモなので参考程度にしてください)


●メカニズム

過食には薬物依存症に似た、脳内報酬系が関わる「やめられない」仕組みがある。

飢餓状態で、身体が強制的に食物を摂取する「飢餓大食」の状態では、脳内のドーパミン回路(報酬系)が異常亢進している。

飢餓過食は本来は空腹感に対して生体を維持するためだが、亢進した報酬系にはドーパミンだけでなく、オピオイドと呼ばれる脳内麻薬用物質も関与していて快楽を得るための食欲が関与してくる。

飢餓状態で高カロリーのものや甘いものを食べると、一次的にドーパミンが大量に分泌される。身体的には快楽だが、意識は食べてしまったことを後悔して飢餓状態を続けようとする。
身体は回復するためになんとしても食べ物を摂取しようとし、その合間でドーパミンオピオイド系の大量分泌が起きる。こうして薬物依存のような状態になっていく。

ところがこの報酬系は徐々に鈍麻していく(耐性ができる)ので、過食(むちゃ食い)をしても快楽を感じることが減り、日常的なささやかな幸せどころか、将来への希望も感じられなくなり、これを患者さんは「過食がクセになった」と表現する。

さらに過食や過食嘔吐あるいは食べ吐きを繰り返す人たちは、行動を調整する前頭前野の働きが低下していて、衝動コントロールの困難さが関与している。
前頭前野は人間性とか社会性との関連がいわれているように、クロニンジャーの七因子モデルでは「報酬依存(人情家)」と関連していて、神経伝達物質では、ノルアドレナリンとの関与が知られている。

つまり、衝動性という前頭前野の働きの低下は「低い報酬依存(人情家)」であり、それは同時に完璧主義という強迫性の特徴の一部でもあるということで、「強迫—衝動スペクトラム」との関係が見えてくる。

このタイプは「報酬依存(人情家)」のほかに「新奇性追求(冒険好き)」も低く、「損害回避(心配性)」と「固執」が高いという特徴があり、権威に対する反感、抵抗に対する正当化と予測不能な対人関係から自分自身が動揺しないように、自分なりのルールやペースなど予測可能な世界への退避があるため治療導入までに長い時間がかかる。

ドーパミンは脳に働く化学物質で、報酬系という部分を活性化させて行動を強化する。人は褒めてもらうと、その行為を繰り返すようになる。
これはドーパミンが働き、褒めてもらうための行為を強化したためだ。
依存症も「甘いものを食べる」「アルコールや薬物を使用する」などの快感を得る行為がドーパミンによって強化された状態。オピオイドも脳に働く化学物質で、エンドルフィンもオピオイドの一種。
鎮痛作用もあり快感を与えるもので、手術や末期がん患者に使用する鎮痛剤にも使用されるが、麻薬の成分としても使われる。

糖と脂質が結合されたものを食べるとき、オピオイドを分泌する脳神経は素早く活性化される。オピオイドの作用で脳が「快感」を感じると、ドーパミンが増加し、報酬系が活性化されることで快感を得られたもの(甘いもの)を食べる行為を強化させる。
甘味はこの一連の脳内作用に強く働く。つまり、甘いものを食べるとオピオイド回路が活性化されて幸福感を感じ、ドーパミンが報酬系を活性化させることで甘いものを食べる行為を強化させる

食事をすると血糖値が上昇する。血糖値が上がるとインスリンが分泌され、糖を細胞に届けてエネルギーとして使うことで血糖値を下げる。
そのため血糖値が急に上がると、一時的にインスリン分泌量も増加する。
一方、レプチンは満腹感を感じるようにする。一般的に食事を開始して20分ほど経つと分泌されるが、レプチンの信号が脳に届くと「エネルギーが十分なのでもう食べなくていい」という状態となる。これが満腹感で、満腹感をよく感じない人はレプチンの信号を脳がうまくキャッチできていない状態である。

インスリンが送る「血糖値が高いのでインスリンをもっと作って欲しい」という信号と、レプチンが送る「もう食べなくていい」という信号は脳の同じ部分(視床下部)に届くが、問題はインスリンとレプチンが視床下部に送る信号が同じで、片方が届くともう片方の信号にはうまく反応できないという状態に陥りやすいということ。

甘いものを食べると血糖値が急激に上昇するため、インスリンの分泌が先に起こり、そのあとレプチンが分泌されるが、すでにインスリンの信号を受けている脳はレプチンの信号をうまく受け取れなくなる。そのため、満腹感を感じるまで時間がかかり、レプチンの信号を脳が受け取れるまで食べるようになる。
この状態が長期化すると脳がレプチンの信号にうまく反応できなくなるレプチン抵抗性が発生し、ますます過食が進む。


ストレスは、脳の感情中枢である扁桃体が活性化されて不安感が生み出される。視床下部からのCRH分泌、下垂体からのACTH分泌を介して、副腎皮質からストレスホルモンであるコルチゾールの分泌を促す(ストレス応答)。
慢性的なコルチゾールの増加は脳を覚醒状態にして、イライラした感情や不安感、抑うつ気分の原因となる。

慢性的なコルチゾールの上昇は、食欲を亢進するニューロペプチドYの分泌を高めて、高糖質・高脂肪の食物への欲求を高める。ストレスによってコルチゾールが高くなりやすい方ほど、食事量が増える傾向にあることが報告されている。

さらにコルチゾールの上昇は、血糖値を下げるインスリンや食欲抑制作用をもつレプチンの慢性的な増加を引き起こし、それらのホルモンが効きづらい体になり、肥満の原因に。

このような状況では、空腹感を満たすために食べるのではなく、ストレスによるイライラした感情のはけ口として食行動が起こっており、食物の感情的摂取(emotional eating)と呼ばれる。
食物依存症は、感情的摂取が習慣化することで始まる。

一方で、依存の形成には脳の報酬系が関与している。口当たりの良い食物、特に糖質は、コカインなど依存性薬物と同じように、脳の腹側被蓋野という領域で快楽物質ドーパミンの分泌を促進する。

ドーパミンは脳の快楽中枢である側坐核を刺激して、快刺激として記憶される。その結果、糖質を含む食物への渇望感が生まれるようになる。

報酬系の活性化はストレス応答を抑える働きを持つため、ストレスを緩和しようと、糖質など口当たりの良い食物の感情的摂取が常習化していく。

つまり、ストレス反応によりコルチゾールが慢性的に増加して、食物の感情的摂取が習慣化することに加えて、糖質が脳の報酬系を活性化することが食物依存の背景にある。

●過食症の薬物療法

 種類       成分名      商品名
SSRI        セルトラリン          ジェイゾロフト
抗てんかん薬     トピラマート           トピラマート
食欲抑制薬    マジンドール           サノレックス

過食を抑えるために有効な治療薬は、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI:Selective Serotonin Reuptake Inhibitor)であるセルトラリン(商品名:ジェイゾロフト)と、片頭痛やてんかんに用いられる薬剤であるトピラマート(商品名:トピラマート)
また、食欲抑制剤であるマジンドール(商品名:サノレックス)も効果がある。

SSRIが第一選択として使われる。
過食の頻度が下がり、嘔吐など排出行動を抑える効果がある。米国では、フルオキセチン(商品名:プロザック)が神経性過食症への適応を獲得している。
日本では、セルトラリン(商品名:ジェイゾロフト)が処方可能。セルトラリン100mgを8〜12週間継続することで、6〜7割の方で過食頻度が減少したことが示されている。
他には、デュロキセチン(商品名:サインバルタ)を十分量、12週間服用することで、過食頻度が減少したという報告も。

SSRIは、うつ病やパニック障害の治療では、数ヶ月単位での服用が必要だが、過食症に対しては、数週間など短期間で効果判定を行う。
十分量を3週間服用しても過食の頻度が変化しない場合、それ以上続けても効果はあまり期待できない。効果を認めた場合は、服薬を続けることで再発を予防する効果が示されている。

トピラマートは、気分安定効果もある抗てんかん薬の一つであり、海外では片頭痛の予防薬としても用いられる。食欲抑制効果は、100mgから200mgの容量で認めらる。トピラマートは、体重を減少させる作用もあるため、肥満にも効果的。

トピラマートの副作用として、皮膚の感覚異常、口渇感、頭痛、吐き気、眠気などが起こる可能性があるため、25mg(または25mg錠、朝夕2回)など少量から開始して、副作用がないことを確認した上で、100mgまで増量。25mgで効果を認めることはほとんどないが、100mgまで増量すると食べ物への渇望が落ち着き、過食の頻度も下がる。効果が不十分な場合は、200mgまで増量。
トピラマートは体重減少作用を伴うため、標準から低体重の方の場合は、注意して使う必要がある。トピラマートとSSRIを組み合わせる治療も有効。

BMI(Body Mass Index)が35以上の高度肥満の方には、食欲抑制剤マジンドール(商品名:サノレックス)も適応となる。サノレックスは、空腹感を抑えて、食事の摂取量を減らす効果が期待できる。夜に過食が起こる場合、昼すぎに服用することで、夜間の食欲を抑えることができる。副作用として、眠気などが起こる可能性がある。

過食症では心身両面からの治療が必要。薬物療法とカウンセリングなど心理療法を組み合わせることで、最大の治療効果が期待できる。過食の頻度が減るにつれて、自己効力感が高まり、健康的な食生活を取り戻していくことができる。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?