草取り。(その1)

梅雨のさなかではあったが、この年はいつになく暑かった。暑かったのだが、天気はといえばやけに梅雨らしく、雨が続き、そうでなければ曇りで、晴れないのである。こうも雨や曇りが続けば、空気はもう、たっぷりと湿気を含んでしまって、重さを増し、隙間のない雲から透けてくる心許ない光ですら、体感温度をあっという間に上げてみせた。これはそんな、雨こそ降ってはいないものの、『いやあ、これはもう、降ってたほうが快適なんじゃないだろうか?』、とすら思える、とても蒸し暑い日のことである。


「はぁぁぁ~~~、、、、、。」

近隣のドラッグストアから帰ってきた母は、なんだか、いつになく浮かない顔で、大きなため息をついてみせた。

「母上おかえり。アカギ?」

「そうそう、アカギアカギ。」

「明日ならポイント5倍だよね?」

「そうなんだけどね、お風呂の洗剤がなくなっちゃって。」

「ああ、そう。」

ここで話を切り上げることもできたのだが、私はどうしても気になって、

「ところで、、さっきのため息、気になるんだけど。」

と続けると、母はこう返した。

「表が、、ジャングル、、、、、。」

普通は、これだけでは意味は通じまい。しかし、形としてはどうあれ、私たちはもう数十年、一緒に暮らしてきたのであり、私は、いわゆる『呼吸』というやつでその言葉を翻訳し、

「ああ。庭がね。確かにちょっとしたジャングルになってる。」

と返した。すると母は、

「私ね、アレ見てると気が滅入るっていうかね、、、、、。」

と、毎年、この時期になれば聞き慣れた台詞を、今年もまた繰り出した。

「ま、雨が降るからねぇ。植物にとっては好機よね。」

「そう。雨の後は一気に草が伸びる。でもね、それを見て戦意喪失したら、それこそ敵の思う壺でしょう?」

どうやら、母が抱くいわゆる『雑草』への敵視は、未だ和らぐ気配すらないようだが、私の見解は正反対であり、

「敵、、ではないと思うけどね。私はジャングル状態も好きだし。」

と返すのが常だが、

「アンタそれねぇ、いつもそう言うけど、ちょーっと、理解に苦しむのよね。」

やはり今年も、双方の主張は平行線のままであった。

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