草取り。(その3)

少し前、今回と同じこの格好で、同じく草取りをしている時に、宅配便のお兄さんと鉢合わせてしまったことがあったのだが、この格好で作業をしている2人は、その内に自分たちがどんな格好をしているのかを忘れてしまうものだから、

「お届け物です!」

と言って、こちらに向かってくるお兄さんに対して、そのまま立ち上がって、軽く手を振る感覚で右手の鎌をぶんぶん振りながら、

「はーい! お世話になりまーす!」

という、後から考えてみれば恐ろしさと恥ずかしさで立ったり座ったりしてしまうような、大変に無礼な対応をしてしまったのだ。少しくらいは驚く様子が見られてもおかしくない状況だったように思われるが、しかしお兄さんは全く動じることなく、もう1度、満面の笑顔で、

「お届け物です!」

と言った。それに対して母が、

「はいー、ちょっと待ってくださいね。ハンコ持ってきます。それとも、サインのほうがよろしい?」

という、これまではごく自然だった筈の応答をすると、お兄さんはそれを制するように、

「それが、この状況ですので、どちらも不要なシステムに変更になりまして。」

と言って、母に荷物を手渡し、たったのそれだけで取り引きが完了したようだった。

2人はといえば、かなり後になってから格好のことに気付いて、


「余程の修羅場に居合わせたことでもあるのだろうかねぇ……?」

「まあ、あの仕事してれば1度や2度はあるんじゃないの?」

「それとも家庭環境?」

「んー……、あまり考えてあげないほうがいいと思うけど。」


という無粋な会話で少しだけ盛り上がった。

ちなみに、そのお兄さんはその後も、たまにうちに配達に来るが、

「お庭、すっきりしましたね!」

とか、

「亀、飼ってらっしゃるんですね。」

とか、以前より気さくに話し掛けてくれるようになった。なんでだろう?

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