草取り。(その2)

ふと時計に目をやると、時刻は午後2時半といったところで、気温のピークを、少しだけではあるが過ぎており、ちょうど頃合いだったので、

「母上、今日は雨降ってないし、私も手伝うから、やっちゃわない?」

私がそう切り出すと、

「でもさアンタ、最近ちょっと体調悪そうよね。大丈夫なの?」

なんて心配されてしまったものだから、私は内心、ぐらぐらと、酷く動揺してしまった。実際のところ、自分でも先行きなんて全く分からないのである。翌日の状態ですら、確信をもって述べることなんてとてもできないのが、私の現状である。だが、ここでは平静を装いながら、

「まあ……、確かにこのところ下降気味だけど、大丈夫でしょう。それにね、こういう時、少し動いておくと、持ち直すことがあるのよ。」

と答えた。私はまた、嘘をついてしまった。

「そうなの? なら、いいけど。でも、無理はしないように。」

母は、私の心の内を見抜いたのだろうか。半信半疑、という様子でこう言って、またしても私を気に掛けるものだから、

「それはね、お互い様でしょう? 母上は、いっつも腰"やる"んだから。気を付けてよね。」

私も"反撃"するのであった。


───


「それじゃ、準備に取り掛かりましょうか。」

「いつもの格好に着替えるの?」

「そ。」

「アレ暑いから嫌なんだけど……。」

「まあ……、身体中蚊にくわれても後悔しないなら、好きな格好でいいけどね!」

「ぐぬぬぬぬ…………。」


───


30分後。

身支度を済ませた2人は、使い古して汚れた靴、長袖、長ズボン、首にはタオルを巻き、口にはマスク、目にはゴーグル、頭には日除けのための、やたら目深で、前方の視界がすこぶる悪い帽子を被り、背中には母がわざわざこの作業のためだけに、なんとイスラエルから取り寄せた、軍用と思しき迷彩模様のハイドレーションパックを背負っており、極め付きは、厚手のゴム手袋をはめた手に、『最高級品』と書かれた、それはそれはよく切れそうな鎌を持っている、という、見事なまでの、まるで不審者の出で立ちで庭に立った。


───


「ところで母上。」

「なぁに?」

「この背中のやつさ、キャメルバックじゃダメなの?」

「そうねぇ……、ダメ……とは言わないけど、アレは明らかに、水がビニールくさくなってしまうでしょう? その点、イスラエルのはね、何時間経ってもちゃーんと水の味がする。やっぱり、ああいう場所にある国が考え出す軍事用品は違うのよねー。」

「えっと……、母上ってさ……、軍事ヲタだったっけ……??」

「そうではないん……だけどね、なにかにつけて、完璧に近いものを探して辿っていくと、軍事用品か、軍事スペック適合品に辿り着くことが多いのは事実よね。ああ、私の場合はね。だから……、私としては、質実剛健を求めているだけなわけで、心外ではあるんだけど、結果だけを見れば、軍事ヲタって言われても強く否定することはできない……かもね。」

悩み多き母よ、あなたは一体、何者なのでしょうか?

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