修行に際しての心得

 具体的な行法について言及する前に、仙道の行法を習得して道(dao)との合一を図るのに、必要な心得を述べておきます。それは「求めず」「急がず」「怠らず」「楽しく」「焦らず」です。何らかの武術やスポーツをやった方には理解しやすいことですが、そういった経験のない方には肝に銘じておく必要があります。
 
 求めず:求めずと言うのは行法の効果を始めから期待しないことです。一般に仙道、気功法、導引術を指導している人は「足の導引をすれば血流が良くなる」とか、「站樁功をすれば万病に効果がある」などと謳って人集めをしている人が多いです。ですが、そういう指導法をする人は99%詐欺師だと思って下さい。むしろ「こうなりたい」という自意識が強くなりすぎることによって道(dao)から離れ、無駄な精力を損耗してしまいます。
~をすれば、~の効果が得られるなどというのは、宇宙全体の潮流からすれば微々たるものなのです。あなたが何らかの力を得ようとすれば、得ようと言う気持ちがある限り永遠に手に入ることはありません。力に対する執着が無くなった時に力は身についているものです。
 
 急がず:行の遂行を急いではいけません。急げば一つ一つの流れが粗雑になり、行法が中途半端なまま次に進んでしまいます。結果、砂上の楼閣になってしまう可能性を忘れないで下さい。行の進み方は人それぞれで、向き不向きもありますが、一つ一つ段階を踏んで基礎からゆっくりと築いていくことで最終的にしっかりとした城が築けるのです。
 
 怠らず:行は少しずつ毎日やることが重要です。日曜日に2時間やるよりも毎日10分やった方が進みます。やった時間ではなく、毎日の積み重ねによって日常生活に溶け込んでいくのが重要なのです。
「淮南鴻烈解」にも「学ぶに暇あらずという者は、暇ありともまた学ぶ能わず」と言います。時間はあるものではなく、時間を作ることが重要です。また全共闘の時に東大に閉じ込められた竹内均東大名誉教授も「学問に肝要なのは、倦まず弛まずだ」と言っています。

 楽しく:日本人は修行と言うと「頑張るぞ」と気張ります。ですが、何度も言っておりますように行は生活の一部にならなければなりませんから、「何が何でもやり抜く」という気構えでやってはいけません。密教僧のように黙々とやるのではなく、宇宙のエネルギーに包まれている幸福感を感じながら楽しんでリラックスしてやることが大事です。
 
 焦らず:すぐに効果が出ないからと言って焦ってはいけません。スポーツなどでもそうであるように、一生懸命練習した時は出来なくても、ある日寝て起きたら出来るようになっている。努力と成果の相関関係はそんなものです。植物を育てるようなつもりでじっくり、のんびりと行うことが重要です。「夜明け前が最も暗くなる」と言いますが、成果が出ないと焦っている時ほど、その気張った気持ちをほぐしてやることで進むことが多いです。
 
 これらの心構えは武術、スポーツ、学問。日本人が努力して身に着けると思っているもの全てに関して言えます。「急がば回れ」「これを知る者はこれを好む者に如かず」です。楽しんで、のんびりと、ただし着実に前へ。仙道に限らずこの心構えは万事に通じます。

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