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マークの大冒険 現代日本編 | 後悔に溺れし者


前回までのあらすじ
早川夜に全てを見破られたマークは観念し、彼女に過去を打ち明ける。だが、夜が求める黄金の果実の隠し場所はウェスタのみ知るもので、マークもその在処は知らないという。それでも果実の回収を諦めない夜は、マークにある計画を持ち掛ける。



10年前、ウェスタの間にて_______。




「本当は黒髪だったんだね。そっか、ローマだもんね」

「そうね。ほんの遊び心だったけど、ブロンドもなかなか似合っていたでしょ?」

「うん。誰よりも綺麗だった」

「そう」

「......ボクはキミが好きだった。初めてキミを見た時から。書架と向き合っていたその横顔がこちらを向いて、目が合った瞬間、既にボクの心は奪われていた。だから、キミがいるあの場所に足繁く通っていたんだ」

「知ってる。あんなに毎日のように来るおかしなお客さんは、あなただけだったから」

ウェスタは、悪戯な表情でそう返した。

「だよね」

「マークは分かりやすいから」

「今日は何度目が合うのか、次はいつ会えるのか、いつもそんなことばかり考えてた。キミが笑顔で話す姿が見たくて、自然と足がいつもあの場所に向かっていた。最初は、お店に頻繁に行き過ぎるのはおかしな奴だと思われるから気を遣ってわざと日を空けたりもしてたけど、もう途中からそんなことはどうだってよくなっていた。ただ、キミに会いたかった。憂鬱な気分の朝も、キミと挨拶を交わしただけで、すっと気持ちが晴れ渡った。不思議だった。生きている心地がした。いつだってボクは、キミを追いかけていた」

「知ってるよ。本当は、全部知ってた。この人は私のことが好きなんだろうなって。でも、絶対に好きだとは言わないことも」

「好きだと言ったら、この関係は終わっていたでしょ?だから怖くて、言い出せなかったんだ。この関係が壊れてしまうくらいなら、自分の感情はそっと胸に仕舞い込んでいた方が良いと思った」

「そうね。きっと終わっていたと思う」

「ひどいよな、キミを前にして、好きにならない奴はいない。もしいたとしたら、そんな奴は大バカ者さ。いつだってキミは、ナンバーワンで、オンリーワン。誰よりも、何よりも、美しい。この世界の太陽なのだから____」





🦋🦋🦋



現代、日本____。


「ボクがホルスと旅したのは、もう10年も前のことだ。まだ22歳のあの時と今じゃ状況が違う」

「32歳!まだまだ若いぞ!諦めるな!」

夜がふざけた口調で言った。

「ボクより10個以上歳下のキミに言われてもな」

「たった10年前のことでしょ?」

「そうか?ボクにはとてつもなく長く感じる10年だった」

「32歳という異例の若さでの教授就任。教授は今や引っ張りだこですもんね。さすがに安定と名声に溺れて腰が重いか。でも、取り戻したくないんですか?」

「取り戻す?」

「ウェスタ。水晶の中で眠る彼女を」

「確かにボクはローマでのあの時のことをずっと後悔してきた。善意に囚われ、死すべき仲間を助けようとしたことで、ウェスタは眠りにつくハメになった。全部ボクのせいだった」

「本当に取り戻したいものなら、何をしてでも取り戻すべき。私はそう思うけど。一度しかない人生だもの」

「だが、果実がどこにあるのか、本当にボクも知らないんだ」

「座標が分からないなら、分かる場所に行けばいいのよ」

「というと?」

「果実の在処が分かる時代に行けば良い。そう、過去にね。あの日のローマに戻るのよ」

「メカ爺はもういないし、誰もタイムドライブを整備できないんだ。そんな機体で行かせられない」

「今のホルスには活動制限がない。彼の時空移動の力があれば、それができる」

「そうか。現にキミも、今こうしてここにいるのだしな。だが、世界への影響は?」

「それはやってみないと分からない」

「危険すぎる」

「教授は過去の自分と対峙し、ウェスタが眠らない運命をつくり、古書店で過ごしたあの頃の日常を取り戻す。私は果実を手にして母を救う。互いに利益は一致してると思うけど」

「キミは本当に策士だな。だが、ルイはどうなる?ローマの件が無事に収束してしまったら、きっとボクはフランスには赴かない。フランスに行く理由がなくなってしまう。ルイの身の安全が保障できない限り、この計画には乗れない」

「過去の教授に、何があってもフランスに行けと指示するしかないわね。そして、ルイ17世を救えと。ところで、彼は今どこにいるの?もうだいぶ大きくなったのでしょう?」

「ちょうどキミと同い年だ。今年で二十歳になった。今はオックスフォードにいる」

「オックスフォード?」

「学費が医学部並みだが、競売でつくった資金と本の印税で何とかなってる。大学を卒業してしばらくした頃に古代コインの解説本を書いてね。その本に掲載したコレクションのコインを競売に出したんだ。そうしたら思ったよりも入札があって、ちょっとした資金になった。最初はルイをボクの母校に入れようと思っていたが、さすがはルイ16世とマリー=アントワネットの子。彼には才能がある。日本に留めておく器じゃない。一流の教育の下、世界をもっと知ってほしいと思ったんだ」

オックスフォード大学
世界ランクの5本の指に入る超名門大学。学費は学部にもよるが、約500〜800万円で日本国内の医学部の学費に匹敵する。英国貴族の子息子女が通うミッション系私立大学である。日本人に対する奨学金制度は現状設けられていないため、受験者本人の学力に加え、親の経済力が大きく問われる。本校は『不思議の国のアリス』の筆者ルイス・キャロルの出身校でもある。彼は学費を免除された特待生で、卒業後は教員になり、生涯オックスフォード大学で過ごした。


「過去の教授なら、きっと未来の教授の意図を汲んでくれる。過去の教授も、何があってもフランスに向かってルイ17世を救い出すわよ」

「だと良いが。だが、仮にあの頃のボクと戦闘になった場合、どうやって対処する?今のボクには何もない。自賛じゃないが、あの頃のボクは3本の指輪に果実を持つ上、ホルスまで従えていた。その気になれば、いつでも世界を支配できる世界最強の男だった」

「あの時の教授のホルスには降神制限があったけれど、今のホルスは違う。契約から放たれ、制限も何もなく行動できる点は、こちらが圧倒的に有利な点。それに過去の教授は果実については所有しているだけで、使い方はよく分かっていない」

「確かに」

「そして......」

「そして?」

「これがある」

マークと夜の会話にホルスが割入り、マークの前に手のひらを差し出した。

「重力の指輪?何でここに!?果実と共に封印したんじゃなかったのか?」

「ウェスタがこれだけは座標に封印せず、ラーに渡していたんだ。そして、俺は太陽船の苦役を経て、ラーからこれを継承した。正統な後継者の証としてな。重力の指輪は、3本の指輪で最も強力な指輪だ。これ1本でも、残りの2本分をカバーできる」

「重力の指輪だけ......。ウェスタはこれを見越していた?いや、まさかな」

マークは驚きを隠せない様子だった。

「それで、お前はこの話に乗るのか?乗らないのか?優柔不断は10年経っても変わらずだな」

「ボクは......」



Shelk 🦋



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