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マークの大冒険 百年戦争編 | ジャンヌ・ダルクの最期



ランスでの王太子シャルルの戴冠式を境に、ジャンヌ・ダルクの運命は雲行きが怪しくなって来ていた。ジャンヌは首都パリの奪還を主張したが、シャルル7世はこれに乗り気でなく、ジャンヌは十分な兵と物資を与えられない状態で出陣する。首都パリの防衛は堅く、フランス軍の結果は無惨なものとなり、彼らは撤退を余儀なくされた。

その後もジャンヌは積極的な攻撃を主張し、各地を転戦した。だが、その強運も尽き、コンピエーニュ包囲戦でイングランドと手を結ぶブルゴーニュ軍の捕虜となった。そして、ブルゴーニュ勢はジャンヌの身代金をシャルル7世に要求するのだった。


軍装のジャンヌ・ダルク
ジャンヌは長髪だったが、入隊後には髪を短く切った
シノンで王太子シャルルに謁見した後、鎧を与えられた


コンピエーニュ包囲戦
コンピエーニュは、フランス北部に位置する都市。これがジャンヌにとって最後の戦いとなった。以降、彼女は囚われの身となり、異端審問で有罪判決を受けて処刑された。ちなみにコンピエーニュは、後のルイ16世とマリー=アントワネットが初めて出会った場所でもある。

身代金
百年戦争時代には、敵国の王や重要人物を生捕りにし、身代金を要求するのがスタンダードだった。殺してしまっては何も残らないが、人質として交渉に支えば、身代金という莫大な資金が手に入った。ちなみに当時のフランス王は絶対王政で知られるルイ14世ほどの力はなく、税金を取るには三部会を開いて国民の許可を得る必要があった。だが、唯一の例外が国王の身代金だった。国王の身代金については、議決を通さなくても良いという決まりがあった。



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1431年、フランス王国、シャルル7世の居間にて____。


「ジャンヌには感謝している。だが、身代金には応じない。正直、今は国庫に金がない。それに彼女が戻ってきて、また私たちの外交を引っ掻き回されても困る。残念だが、身代金の取引には応じることができない。とても心苦しいが、そうする他ない」

「それがキミが出した答えなんだね」

「マーク、そう私を悪く言わないでおくれ。私にとっても苦渋の選択だった」

「仕方ないさ。それが王としての賢明な判断だ。身代金の支払いは、敵を潤わせることになる。それは結局、敵軍の強化にも繋がってくる。ボクはキミを責めないし、否定もしない。それがキミが出した答えなのなら、ボクは何も反対しない」

「でも、本当にジャンヌには感謝している。そこに嘘偽りはない。こうして私が王として認められたのも、彼女の功績が大きい。だが、今はタイミングが悪すぎる。仕方ないが、見捨てる他ない。本当に、本当に、心苦しいが。許してくれ」

「分かった。それが聞けて良かったよ」




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1430年、ブルゴーニュ公国領アラスにて____。


マークはジャンヌが囚われているブルゴーニュ公国領のアラス赴き、ジャン2世・ド・リュクサンブールと対峙していた。


ブルゴーニュ公国領
当時イングランドと手を組んでいたブルゴーニュ派の支配領域。

アラス
ブルゴーニュ公国に位置したアルトワ地方の都市。ブルゴーニュ軍の捕虜となったジャンヌが移送された地。ジャンヌは監禁されていたヴェルマンドワ塔から飛び降りて脱走を試みるが失敗。


「王太子の遣いか?それで、身代金の件はどうなった?」

ジャン2世・ド・リュクサンブールは、眉間に皺を寄せながら言った。


ジャン2世・ド・リュクサンブール
百年戦争期のフランス貴族。ブルゴーニュ派の人物で、捕虜にしたジャンヌ・ダルクをイングランドに売り渡したことで知られる。



「シャルル7世は、ジャンヌの身代金には応じない」

マークは、ジャンヌの救出意思がシャルル7世にないことを淡々と告げた。

「は?」

「支払わないと言っている。今までの回答への沈黙が、その答えだよ」

「そうか」

「だが、ボクがジャンヌの身代金を払う」

「どうゆうことだ?」

「言葉の通り、そのままだよ。金がほしいだろう?だが、条件がある」

「条件?」

「彼女は死んだことにしてくれ」

「なんだそりゃ」

「彼女は歴史から消えなくてはいけない。だが、死ぬにはあまりにも若過ぎる。それはボクの心が痛む」

「意味が分からん」

「ルーアンの地で、早朝にジャンヌの火刑をひっそりと決行したことにしてほしい。そして、彼女の身体は火刑によって全て燃え尽き、骨は川に捨てたので、何も残っていないと報告するんだ。そうすれば、キミらが要求した身代金10,000リーヴルは、金貨できっちりと満額支払う。それが条件だ。それと、彼女が軍に復帰することは二度とない。ボクがそうさせない。それはキミらにとっても安心材料となるはずだ。悪くはない条件だと思うが」

フランス王国 エキュドール金貨 シャルル7世治世下1422〜1461年
ほぼ純金の良質な金貨だが、その分柔らかく曲がりやすい上、
カミソリのように薄いことから扱いは難しい

シャルル7世のエキュドール金貨
ヴァロワ王家の盾紋章とシャルルの名が刻まれている。身代金は、金貨での支払いが多く望まれた。

10,000リーブル
ブルゴーニュ軍からジャンヌ・ダルク解放に要求された身代金の金額。当時のフランスでは隊長クラスの軍人の月収が約60リーブルだったと記録されており、ジャンヌの身代金要求額が大金だったことは確かである。

ルーアン
フランス北部ノルマンディー地方に位置する都市。ジャンヌ・ダルクが処刑された地でもある。


「何が企みだが知らんが、まずは支払いが先だ」

「分かった。明日、荷台に乗せて身代金を運んでくる。それでいいか?」

「破ったらどうなるかは分かるよな?お前の首をはね飛ばし、その亡骸を市中で引きずり回してやる」

「ああ、必ずまたここに来る。でも、このことは内密に。それは必ず守ってほしい。必ずだ。誰にも知られないようにしなくてはならないんだ。誰にも。そう、神にさえも、ね。もし約束を破ったら......」

「え?」

気づかぬ間に天空神ホルスの長く鋭い爪がジャン2世・ド・リュクサンブールの首の皮に食い込んでいた。何者かの気配はないはずだった。背後からナイフのような爪を突きつけられたジャン2世・ド・リュクサンブールは、驚きと恐怖で硬直する。彼は身動きひとつできない状態だった。一歩でも動けば、ホルスの鋭利な爪で喉が裂けるだろう。

「ボクには亡骸を市中で引きずり回すような悪趣味はないが、約束を破ったら少なくともキミの首は吹き飛ぶかもしれない」

「悪魔だ。ハヤブサの悪魔。貴様、邪教にすがって、ここまで這い上がったか」


To Be Continued...



Shelk🦋

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