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映画『消せない記憶』

映画『消せない記憶』を観た。
友人でイラストレーターの山口真理子さんがパンフレットやポスターなどのアートワークを担当している映画。

下北沢駅のすぐ上にある新しいミニシアターシモキタエキマエシネマK2はフカフカの椅子が心地よくて、初めての場所なのに随分と落ち着く感じがした。

物語は花屋で働く路上ミュージシャンの優衣(ゆい)と舞台俳優で同じく路上パフォーマンスをしている西くんの二人のお話。

実は公式の情報を何も見ずにストーリーもちっとも把握しない状態で観たのだが、これが私にとっては正解だった。
(まだ観ていない方、もし良かったらストーリーの把握なしで行ってみてください。新鮮な驚きがあるかも。なのでここではあらすじには触れずに、感想を書こうと思います)

公式サイトはこちら

優衣の、人に壁を作る不器用そうなところ、同じ場所でしか演奏をしないという生真面目で曲げられないところ、自分がこうと決めたら人に反対されても続ける忍耐強さ。
柔らかい印象の顔立ちなのに、その石のような性格がきちんと伝わってくる。
そして、そんな彼女が西くんと出会うことで柔らかく変わっていく。

ガーベラの花言葉が何種類もあるように、同じ人間でも人はとても多面的だ。
彼女が見せていた頑固な面は、西くんによって柔らかく解されていった。
この、西くんが人を変えていく感じ、他人が守っているスペースにするっと入り込んでその人の心を開いていく感じが、人懐っこい猫を見ているようだった。
あれで来られたら、わたしも舞台のチケット30枚は余裕で買ってしまうと思う。

主役の二人にばかり言及しているけれど、他の脇を固める役者さんたちも良かった。
ただ通りすぎてしまう感じではなく、映画を見終わっても優しき隣人として心に残っているという不思議な感覚は、わたしの元にも記憶代理人が来たんじゃないか?という感じだ。

特に施設の職員役をされていた秋田ようこさんはその後のトークショーで司会もされたので、舞台に出てきた瞬間に
(ん?施設の職員の人がなぜ?)という、現実と映画の中のリンクが起きて若干混乱した。
それくらい、とても自然で印象的だった。

トークショーと書いたけれど、この上映回は山口真理子さんにアートワークまわりの話を聞く、という貴重なイベントで、我らがまりこが登壇したのだ。

彼女が良く働く牛(韓国の言い回しで良く働く人のことをそう言うらしい)なのは知っていたが、ティザービジュアルからポスターからパンフレットまで、くまなく担当していたのは驚いた。

サインが沢山書かれたポスター


ポスターに使われた色がガーベラ(劇中で大切な役割をしている)から取られていたり、パンフレットは役者さんたちのオフショットのような写真が多く、それはファンの皆さんが喜んでくれるように、というファン目線だったり。
とにかく作品とそれを作る人たちとそして大切なファンのことまで考えつくして作っていて、彼女の仕事に対する人柄が伝わってきた。

『消せない記憶』パンフレット

そして驚いたのはティザービジュアル。
なんと役者さんが決まる前に描いたというのに、主役の二人をモデルにしたかのような完成具合。
過去と未来はすべて現在に凝縮されているようだな、と思う時があり、真理子さんの絵は時々その現象が起きるのだけど、今回もまた未来が見えていたかのようなティザー絵。

『消せない記憶』ティザービジュアル

映画を観た後に感じた、温かく強い印象を絵からも感じるのは、脚本を読んでから描いたからだろうか。

トークショーでも「広告の世界が目まぐるしく消費されていく感じだとしたら、映画は残っていく感じ」と話していたが、本当にそうだ。
映画だけでなくパンフレットも何十年か経って懐かしく本棚から取り出して、新しい下北の映画館のふかふかのシートまで思い出すのかもしれない。

何を残したくて人は映画を作るのかな。
言いたいことがたくさんあるのに上手に言えない人が作るのかな。
口下手な映画というのがあるような気がして、わたしはそういう映画が、誰かの心に残っていくように思う。
勝手な印象だけれど『消せない記憶』も口下手な映画な気がした。

最後に。
ロングラン上映しているとのことでまだ観られる劇場もあると思います。
気になった方はぜひ映画館へ。
そして、我らがまりこの力作パンフレットもぜひお買い上げ下さい。

ではでは、また!

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