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李禹煥展にて

こんにちは!
今日は前半は普通にブログ、後半はマガジンでお送りします。

11月2日に、東京国立新美術館で開催していた李禹煥(リ・ウファン)先生の李禹煥展に行ってきました。

李禹煥展とは:「もの派」を代表する美術家、李禹煥(リ・ウファン、1936年生)の東京では初めてとなる大規模な回顧展

展覧会概要より

先週のわたしは、梨泰院雑踏事故の衝撃がまだ抜けきらず、追悼の言葉を何度もツイートしようとしては、自分の言葉が薄っぺらく感じられてしまい、何も書けないという感じでした。
「言葉が出てこなくてもいい」という若松英輔さんの言葉をよく思い出しては自分を正当化していました。
自分が薄っぺらいなと感じる言葉を書いて、それが誰の慰めになるというのか?自分すら慰めることもできないのに!という思いで、何も書きませんでした。

そんな中で行くことにした李禹煥先生の展示。
BTSのリーダー、ナムさんことRMも好きな李禹煥先生。ずっと気になっていたのですが、もう会期も終わるということで滑り込むようにして行ってきました。

結論から言うと、この日行くことができてとても良かった、というのが率直な気持ちです。逆に、この日じゃないとダメだった。
先生の作品の合間を、オーディオガイドから流れる中谷美紀さんの落ち着いた声、李禹煥先生の優しい声、学芸員の米田さんの誠実な声を聞きながら縫っていく。
自分が作品の一部になったような没入感。
そして先生の作品の大らかさからなのか、展示の後半に行くに従って、圧倒的な”赦されている感”がありました。

そうか、わたしは赦されたかったのかもしれないな。
若い人が何もできないまま沢山亡くなって、その魂がまだ手を伸ばせば触れられるような高さに漂っているようなそんな時期に、追悼の言葉も言えないでいる自分を、黙って赦してくれる存在が欲しかったのかもしれない、と。

それが、人でもなく、本でもなく、音楽でもなく(いや、ちょうどジンくんのThe Astronautが出ていてその声にはだいぶ癒されたのですが)芸術家の作品であったことに、自分でも少し不思議な感じがしました。

改めて、作品の持つ力を感じました。
作品というのは、見るだけのものではなく、その作品を通して自分と邂逅するものなのではないか?
前から少しそんな気持ちを抱いていたのですが、今回の李先生の作品ではそれが特に強かったです。

実はこの前日に、三菱一号館美術館で開催中の「ヴァロットンー黒と白」も見たのですが、パリの群衆(デモの様子)や、”死”をテーマにした展示が重くのしかかってしまい、直視できなかったんです。
版画のモノクロの世界ゆえの圧がすごかった。
これは完全に受け取る側の問題なので、疲れていない時に見たのなら違う見え方がするだろうな、とは思います。

ヴァロットンがいい意味での”圧(あつ)”だとしたら
李禹煥はいい意味での”空(くう)”


李禹煥展を見た後に思ったのは、
あぁ、ここには美術館のエゴがない、
ということでした。
作家が伝えたいもの、表現したいものがストレートに表現されている空間だな、と。
じゃあ、作家のエゴは感じないのか?というと、それも感じなかった。

作品とわたし
ただそれだけという感じ。
それは、「対話」「関係項」「応答」という作品の名前たちにも通じるなと思ったんです。
作品の名前というだけでなく
作品とわたしの対話、でもあると。

この記事を書きながら、展覧会についての情報を探したら、先生のインタビューが出てきたので拝見したのですが、このインタビューの中で、

「欧米では大概展覧会を組み立てるのは美術館がコミットしてくるけど、今回の展覧会はぜんぶ自分で組み立てた」

とおっしゃっていて、わたしが感じたことは間違っていなかったのだなと、ちょっとニヤッとしてしまいました。

インタビュー動画はこちらです。

そして一方で、もう亡くなった作家の(今回見たヴァロットンとかもそうですが)展示は、美術館や学芸員さんの解釈と表現、何を伝えたいのかにフォーカスするので、当然そこには”こう見てほしい”というエゴが入らざるを得ないなとも感じるのです。いい意味でも悪い意味でも。
それが、疲れている身には、グッと堪える展示になってしまうこともあるんだなぁ、と。

自分は何か展示をするタイプの作家とかではないのだけど、物語を書く時やそれを形にする時、まぁ李禹煥先生の境地には到底及ばないけれど、先生のような気持ちで作品を作ったり展示ができたらなと思いました。

李禹煥展は、東京は終わってしまいましたが、12月に兵庫で開催されるので気になる方はぜひ行ってみてくださいね(急に回し者のような発言だけど、ただのファンです)。


さ、ここからは、もう少し、展示とエゴについてをマガジンで書いていきますね!(またちょっと言いにくいことを言っていきます!笑)

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