書き出し_休載小説の話をなんとか終わらせよう_アステリアの鎖 52

 アステリアは、世界を浄化してまわるたびに演説する。

――自分は魔王を封印したに過ぎない。自分は人間の純血種、100年も生きることができない短命の種族であるから、魔王の恐怖と脅威を後世に伝える努力をして欲しい。

 つまり、彼女の中では無償で土地を浄化しているのではなく、魔王の脅威を後世に語り継ぎ、魔王が復活することを忘れないことが土地を浄化する対価なのだ。
 彼女の意思を理解した国と種族は、様々な形で後世に語り継いだ。

 水晶のカプセルに封じられた魔物の標本。
 聖なる結界によって管理された、魔王が汚染した土。
 後世へ伝えるための記録媒体の開発。
 魔王が使う断種の呪詛【ブロークンチェーン】の対策。
 伝説の都市【ユピテル】のロストテクノロジーの復活。 

……しかし、平和に浮かれたデーロスは、アレンとアステリアが望まない方向に動き出した。

 アレンとアステリアを称える銅像。
 勇者の冒険を描いた歌劇(オペラ)。
 魔王討伐の偉業を讃えたパレード。
 二人の英雄を祭り上げるために、アステリアを聖女として讃える声。
 二人を崇拝する宗教団体。

 あぁ、ハレルヤ、ハレルヤ、崇め称えよ、賛美せよ。

 美化され、誇張され、理想化され、二人はいつの間にか、人々にとっての偶像となり、民衆は勇者と魔導姫の物語に熱狂した。

 それが悲劇の始まりだった。


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