書き出し_休載小説の話をなんとか終わらせよう_アステリアの鎖 42
これが夜族の性(さが)だとするなら、多種族とよく諍いを起こす理由がよくわかる。
血肉に酔い、残虐な行為に喜びを感じ、背徳を肯定する。
自分の身体とは思えないほどの、煮えたぎるような高ぶりにティアの初心(うぶ)な心が悲鳴をあげた。
くちゅりと音を立ててファウストの舌が、ティアの口内に入っていき、器用に自らの舌でティアの舌を自分の口内へ導いていく。
「う……あ、はっ」
もっと血を味わいたくて、ティアは貪婪にファウストの口内を貪り始めた。唾液に混じる微かな血の味が蜜のように甘く感じ、口内にわずかに残るつぶつぶとした肉のカスを執拗に何度も舐めとろうとする。
欲しい、血、肉、だけど、ちがう、これだけじゃない。これだけじゃ、足りないの……。
柔らかな頬を赤らめて、とろんと潤んだ紫の瞳が妖しい熱を帯び始めている。向こうからカーラの媚声が波音と共に聞こえてきて、ファウストの下腹部あたりが反応しているのが分かった。
あぁ……これだ。
もはやティアは自分が何をしているのか分かっていない。
胡坐をかいているファウストの腰に、ゆるゆると腰を下ろしてスカートからのぞく細い足を蔓のように絡める。
「ファウスト殿、どうか……」
「承知しております、姫様。我が国の青バラの為なら、自分はなにも惜しくありません」
この時、夜族そのものと化していたティアは、初めて間近でファウストの顔を見た。
「姫様」
『ティア、お前は自分のために生きるんだ』
お父さま!
彼と父は、残酷なまでに似ていた。
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