書き出し_休載小説の話をなんとか終わらせよう_アステリアの鎖 47

「そうです」

 ティアの問いかけに、ファウストは静かに応えた。父にそっくりな顔なのに、どこか寂しげに見える表情だった。

「あなたのお父様はすごいですよ。一卵性の双子なのに、うちの父とどこで差がついたのか」

 そう言って、遠くを見つめる翠色(すいしょく)の瞳は、冬のへどろ沼のように冷たく淀んでいる。答えが分かりきっているからこそ、答えられない問いかけ。自分の知らない場所で、父は、伯父は、ファウストは、お互いを傷つけあいながらも、ある種の連帯感を持って生きてきたのだろう。
 ティアや姉たちよりも痛々しく生々しい家族らしさに、嫉妬と羨望が入り混じった複雑な感情が胸に渦巻く。

 わたしは、父にとってどんな存在なのだろうか。

 自分が父にとって愛されていたのは間違いない。
 娘が自分の道を進めるように宮廷魔導士(ウィザード)の権限で、ティアに王家の回顧録を見せた時もある、ユニークスキルに目覚めたティアのために同窓(どうそう)であるヘルメス教授を説得し、カルティゴのネイリス学院に編入させたのも。護衛として、当時は傭兵崩れだったカーラを連れてきたのも――全部。

 父がティアのためにしてくれたことを想像し、成長するごとに父がしてくれた献身が、どんなに周囲の顰蹙を買い実行にうつすことが難しいかを知った。だからそこ父の愛情は疑う余地がないのに、ファウストを見ていると自分の知らない父の姿が垣間見えて、それが無性に不安をかきたてるのだ。

 

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