書き出し_休載小説の話をなんとか終わらせよう_アステリアの鎖 89
ティアの言葉に最初に反応したのは、ファウストだった。
彼は立ち上がると、まだ少しふらついた足取りで、道路の真ん中をあやうい足取りで歩きだす。
青白い月光によって浮き上がる、ファウストの長い影がどこか不安定で、そのまま彼がいなくなってしまいそうだった。
「ファ、ファウスト殿、待ってください。隠し通路の場所が分かったのですか」
「……………」
ティアが急いで車の焼け跡から、無事だったトランクを回収してファウストの後を追い、後ろからカーラとプルートスが続く。
「怒ってんのか?」
「かなり」
プルートスの問いに、ファウストが不機嫌さを前面にだして短く答えた。背中を見ただけでもわかるファウストの怒りは、プルートスを信頼していたからこその裏返しなのかもしれない。
「ユリウスとは学生時代の悪友だった。クラウディア殿下の母君であり、現女王であるカーリア陛下とも、父君であらせるイーダスとも、そしてヘルメスとも、ダフネとも交流があった。25年前、俺たちは何も知らない18歳のガキだった!」
海岸沿いの道路を歩きながら、プルートスは声を張り上げる。それはまるで自分自身を責めるような口調で、プルートスの独白に対して、ファウストは歩調をゆるめずに声を絞り出す。
「聞いている話と違う。ダフネは自分の母の名前だ。父も母も気が狂ったもの同士だと、自分はきかされていた……っ!」
怒りと疑心を滲ませた声海辺の潮風が頬を撫でる中、すすり泣くような波の音だけが耳に残った。
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