書き出し_休載小説の話をなんとか終わらせよう_アステリアの鎖 48

「ところで姫様、大分落ち着いたご様子ですが、どうでしょう、儀式を棄権いたしますか?」
「え?」

 不意をつくファウストの提案に、暗く沈んだ意識が現実に引き戻された。

「姫様は寝ていらして存じることが出来ませんでしたが、自分がはり巡らせている【目】が、数キロ先の襲撃をかけられている【ペルセ】の映像をとらえました。そこで安全を確保しようと来た道を引き返して、私達は一度、首都へもどろうとしたのです。ですが、その短い時間で、ステルス地雷を二個仕掛けて多数で襲撃。統制が取れていることから、彼奴等(きゃつら)はただの烏合の衆ではないでしょう」
「……その【目】というのは、あなたの固有スキルですか?」
「はい。スキルの【ビーストテイマー】に種族スキルの【魔力菌糸のネットワーク】を組み合わせて、疑似契約した動物に自分の菌糸を寄生させて、魔力を通じて五感を共有させるのです。座標を割り出したり複数の映像を確認したりできる自分が編み出した【オリジナルの魔導】です」
「【オリジナルの魔導】って、すごい。理論上はわかるけど、実際にそんなことができるなんて」

 ティアの称賛の声に、ファウストは翠色(すいしょく)の目を細めて照れたように笑った。
 その笑顔は、父とはまったく違う、普通の青年らしいあどけないものだった。

「えぇ、その、ありがとうございます。この魔導の欠点は脳の負荷が多大であることでして、自分の場合は自らの肉体の中で育てた薬草で、そのまま回復薬(ポーション)を精製して、直接血液にポーションを流して脳みそを回復させているんです。……が、襲撃者の方は、蠅の脳みそに直接魔力のネットワークを編み込んで、こちらを盗聴していたわけですか。こんな対象が小さいうえに、脳みそを壊さないように魔力で紐づけるなんて、上には上がいるモノです。正直、ちょっとへこみました」

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