書き出し_休載小説の話をなんとか終わらせよう_アステリアの鎖 67

「それでは、コハク殿。次の質問です」
「……ぃ」

 ティアの艶やかな唇から「次の質問」が紡がれた時、コハクの表情は憎しみと喜びで濁り、アンバーの瞳が焦点を結ばず不気味にぎらついている。

「コハク殿、あなたはどこの誰なのですか? 裏を引いている首謀者は?」
「こた、え、るかっ。……この【ブラネッツ】がっ!」

 精一杯の理性をかき集めて、嘔吐物を吐き捨てるように声を荒げるコハク。ここまで来て、抵抗の意思を見せる精神力は大したものである。が、彼の尊厳を奪わせまいとした抵抗は、ティアとファウストの顔から表情を奪った。

「【ブラネッツ】……ですか。久しぶりに聞きましたね。その単語」

 ティアの発した言葉の端(ことのは)には、隠し切れない怒りとやるせなさがあった。

「つまり、あなたは【混血排除主義者】ですか。驕り高ぶった純血人間種の、もっとも下劣で品勢を疑う思想ですね」

 ファウストの方も先刻まで感じていた、目の前の男に対する同情心が失せて厳しい表情を作り腕を組む。

【ブラネッツ】――正確には【ブラッドネストゥール】。
 根拠のなき血統。穢された種と失われた純血を意味する、混血種に対する侮蔑の言葉――分かりやすく言うと【薄汚い化け物】という意味だ。

 25年前にオルテによって滅ぼされたライラは、【混血排除主義】を掲げて混血種を【ブラネッツ】と差別し、【世界は一度、原点回帰すべきである。種族の純血性をいま一度見つめ直すべき】と声明を発表した。

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