書き出し_休載小説の話をなんとか終わらせよう_アステリアの鎖 84

「わたしが帰国する前に、そんな壮絶なことが起きていたなんて」

 ティアが唇を噛んで悲痛な顔をするが、一番つらい立場にいるのは、ファウストだと思い返して彼の顔を見返す。
 ファウストの方は従妹の心情を察しつつも、苦笑を一つ漏らすだけで、気にするなと軽く手を振って見せた。それが余計に痛々しい印象をもつのは、ティア自身の罪悪感からくるものなのかもしれない。

「軍の方は情報が錯綜しているせいで出動が遅れていましたが、自分が【セカンド】に情報を送ったことでやっと動きました。市街地のテロはなし。ペルセの方に詰めていたナンバーズはすべて【ロスト】、いま霊廟に避難している女王陛下とアマーリエ殿下には現在の【サード】が護衛について……」

 ネットワークを介して情報を整理しているのだろう。現状をプルートスに報告するファウストは次第に顔色が悪くなっていき。

「……そんな、ありえない。なんでアイツがっ」

 翠色すいしょくの瞳が見開かれて、苦々しい感情が口をついて出ている。まるで幽霊に出会ったかのような、助けを求めている子供の顔のように見えた。

「どうした、ファウスト?」
「あぁ、プルートス久しぶり……だま……いやはや、警視総監とは出世したもんだな……やめろ、クソ、親父……おいおい、泣かせるねぇ。父親に対して、そんな口叩……かせとは」

 突然、支離滅裂なことを言い出すファウストに、カーラはティアを庇うように前に出て、名前を呼ばれたプルートスは呆然とした顔で呟いた。

「もしかしてお前なのか、ユリウス?」

 プルートスから零れ落ちた名前は、ファウストの父親の名だった。

 

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