書き出し_休載小説の話をなんとか終わらせよう_アステリアの鎖 68

「いい気にならないでください。なんの取り柄もない人間風情がっ!」
「――ッ」

 声を荒げて、ティアは男の腹部を蹴り上げた。ブーツのつま先をえぐり込むかのように蹴り上げて、次に股間を何度も思いっきり踏みつける。
 それだけではない、同時に男の痛覚を魔菌糸で快楽神経につなげて、コハクが今感じている激痛を、圧倒的な快楽にするように改造した。

「あなたがた人間の純血種は、遺伝子の箱舟。世界を支えし担い手でありながら嘆かわしい。あなたの偏った思想を、わたしが矯正してさしあげます」「ハッ、やれるものなら……」
「ライトニング・ネット・ボルト」

 低くつぶやいたファウストの手から、緑色の電流がほとばしりコハクの肉体を網のように包み込んだ。

「あああああああっ、ひいいいいいぃいいいいいぃいいっ……」

 ぷすぷすと音を立てて火花が散る体。焼けこげる髪から白い煙が立ち上り、トーストを焦がした時の匂いが周囲に広がった。

「見てくださいファウスト殿。電撃を浴びているのに、この男、喜んでいますよ?」
「姫様、悪趣味ですよ。ですが、こんなに喜んでいる顔を見せられると微妙な気分になりますね」
「このっ、好き勝手に言いやがって……っ、いぃ」

 苦痛に耐えることが、快楽に変わる。
 矜持と尊厳を痛みをもって保っていた理性が、どろどろと溶けて、それはまるで、麻薬中毒者の禁断症状を味わっているような感覚だった。
 痛みと快楽と強烈な飢餓感が頭の中でぶつかりあい、思考がぐちゃぐちゃになる。
 気持ち良すぎて、ものたりなくて、せつなくて、苦しくて頭がおかしくなりそうだ。

「もう、やめてくれ。なんでも話す、話すからっ」

 脳みそが溶けそうなほどの強烈な刺激に、情けない言葉を出しながら、コハクはついに絶頂を迎えて降参した。 

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