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【マルチ投稿】アステリアの鎖_第三十八話【支這】

 ナノマシーンの制御はこちらが乗っ取った。だから、もうここに用はない。ファウストもゼロも急いで魔法を解き、意識を現実世界へ戻そうとする。

――危ない。一刻も早く、戻った方が良い。

 いますぐここから逃げろと、本能的な部分が叫んでいる。
 アステリアよりもさらに悪質で恐ろしい存在が、
 異次元の狭間から垣間見えた得体のしれない怪物よりも異質で、
 この世界の脅威となり得る強大な悪意が、

 はるかな頭上で自分たちを見下ろしている感覚。

 アステリアはその存在に囚われて、強固な鎖に拘束されて、常にいたぶられる存在となり果てた。

「あぁあぁぁぁ、ふざけんな、死ね。このクソ神がっ! おまえなんか、おまえなんかあぁぁっ!」

 彼女の存在を表す青バラが、涙のように花を散らして悲鳴をあげるも、彼女の上げる悲鳴は助けを求めるよりも、自身に加害を加えている存在への怨嗟が強く、この期に及んでも、挫けることのない魔導姫の意思には感心させられる。

『あぁ、愉快なり、愉快なり』

 上位空間に響く声が、ファウストとゼロの意識に入り込んだ。
 まるで獲物の怯える反応を楽しむかのような、無邪気な悪意でもって、魂を侵食させる存在――それは。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 空間が歪んで頭上に影が差した。
 見上げてしまったのは、恐怖を打ち消すための本能的な反応であり、ゼロとファウストは目を見開いてたまらず悲鳴をあげる。

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 もはや言葉の体を成さず、喉からほとばしるのは、絶叫という名の言葉の洪水だった。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 あれは何なのだ。
 強大で絶対的な圧力が、二人の意識を押さえつけて自分たちに全貌を明かそうとしている。
 本体の肉体がぞわぞわと震えて、魂の根元から震えあがっている。
 逆らうことは許されない、それ以上に逆らえばどうなるかわからない恐怖が全身を蝕み、二人は逃げ出すことも出来ず身もだえして絶叫をあげる。

「―――――っ」

 気配だけで二人の魂を軽く押しつぶせるほどの存在感。
 見上げたままの姿勢に固定されたまま、ファウストは黄金に輝く翠色すいしょくの瞳で、その存在を見てしまった。

「ぎゃああああああああああああああああ……っ!」

 もし体が自由だったら、ファウストは両目を潰していただろう。しかし、ゼロの方は赤い瞳を見開きつつも、両目からさらに血涙が、口からも鼻からも耳からも血が流れようとも、自分以外の干渉者の正体を見据えようとする。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 挫けそうになる意志に抵抗しようとゼロは思考する。
神の鼻ネ・ディ・ジュ】がまだ発動しているのなら、自分たちとアステリアとのつながりはまだ健在であり、アステリアの目を通して正体を見極めることができるはずだ。
 せめて、相手が敵なのか、味方なのかを確認しなければ、もしも、25年前に【神の鼻】と【傀儡神の糸】の技術が流出し、自在に扱える存在が自分たちの敵にまわったのだとしたら……。膨らんで破裂寸前の不安は、正体が判明したことで暴発した。

「―――――っ」

 彼らは見てしまった。
 種神のおぞましい全容を、邪悪な無関心さでもって、上位世界のはるか上空で蠢いている名伏し難い悪夢のようなフォルムを。

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「縺溘�縲後℃繧�≠縺ゅ≠縺ゅ≠縺ゅ≠縺ゅ≠縺ゅ≠縺ゅ≠縺ゅ≠縺やヲ窶ヲ縺」�√�……」

 彼らが吐き出す言葉には意味がない。
 あるとするならば、おぞましい狂気の触手から、正常な精神を守るための防御本能であることに他ならない。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 おぞましいものを直視した二人の脳は、彼らの精神を守るように彼らが見た種神の姿をデフォルメさせる。
 自分たちの知ってる物に、自分たちが見てしまったモノを次々と置き換えて、ようやくファウストとゼロは意識を再起動するまでに回復させたが、もはやなにもかもが限界だ。意識を上位世界から現実へひっこめた二人の顔は、土色に褪せて、唇も青くひび割れている。

 アステリアは金属の床でのたうち回っていた。
 ファウストは膝をつき、ゼロもぐったりとした様子で上半身を樹木から垂れ下げている。

 あれは、なんだ。自分たちは、なにを見た。

 見たものの正体は本能は告げているが、理性が悲鳴をあげて現実を拒絶した。
 自分たちが見た怪物――女性器を男性器を組み合わせたグロテスクな姿。アレを自分たちの神だと思いたくない。
 それよりも。

「……ちっ」

 ゼロは舌打ちした。次元の穴は塞がれることなく、大きさがさらに開いている。このままでは向こう側の生物が、この世界に侵入してくるのも時間の問題だ。
 このままではと、考えあぐねてている時だった。

「アレイシアっ! アレイシアっ! 助けて、助けてくれえええっ!!!」

 苦しさに耐えかねて、アステリアは叫んだ。
 勇者アレンこと、本名はアレイシア。魔導姫とともに世界を救った存在でもある彼女の名を、アステリアは大声をあげて助け求める。

 白い喉を弓のように反らせて、血を吐くような声で助けを求めるアステリアは、苦し気にのたうち回り「助けて、助けて」と叫び続けた。

 ゴゴゴゴゴ……。

 次元の穴から振動が聞こえてきて、ファウストもゼロも空気が変わったことを悟る。

――ガシャンと、ガラスが割れた音が聞こえた。

 次元の穴から、鋼で包まれた巨大な手が伸び、穴から吹き荒れる風が天井に伸びたオリーブの葉を揺らした。

「あ、あれが、魔王か」

 ファウストは魔王の規格外の大きさに唾をのんだ。次元の穴で覗いたとはいえ、彼の中での魔王はいまだ絵物語で語られる程度の脅威であり、現実味を帯びない存在でもあった。

 こんな強大な存在から、自分たちは世界を守ることが出来るのか?

 問題があったとはいえ500年、この世界の平和は維持されていたのだ。と、魔王の威圧感に耐えながらファウストは思った。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 どんどんどんどん、自分たちが考える以上に問題の規模が大きくなっていく。果たして自分たちで解決できるかどうかもわからず、ファウストもゼロも雰囲気に呑まれ始めていた。

【あなたが助けを求めるなんて、よっぽどのことよね。アスティ】

 声が聞こえる。若干低めであり、機械音で合成された不自然さがあるが、発せられた言葉の柔らかさが女性を連想させた。

「アレイシァ……」

 湿り気を帯びた魔導姫の声は艶っぽく、よろよろと上体を持ち上げたアステリアは、次元を超えて現れた巨大な手に縋りついた。

「ごめん。ありがとう」

 安堵に満ちた言葉が、ファウストとゼロに否応なく悟らせるのだ。アレイシアは勇者アレンであり、女性であると。
 魔王と勇者がなぜそこにいるのか。
 500年前の裏で、果たしてどのようなことが行われ、どのような策謀がめぐらされていたのか。この時点で分かることは、500年前の魔王封印と真相は、心躍るファンタジーではないことだ。

「もう、いやなんだ。私はすべてを知ってしまった。もう、君を助けることができない。――すべてを終わらせてくれっ!」
【…………】

 数秒の間と共に。

【わかった】

 意を決した声が、次元の穴を通じて向こう側から聞こえた。
 魔王の腕が伸びている根本の空間が歪み、とてつもなく巨大な存在が向こう側からやってくる。

……そう、思っていた。

 巨大な腕が粒子となって消えて、代わりに現れたのは自分たちがよく知る少女だ。白いケープに白いスカート。露出している肌には無数の傷跡があり、短いマンダリンオレンジの髪からは、ところどころ猫毛が立っている。

「アレイシア?」

 魔導姫の顔に喜びと戸惑いが広がる。
 次元の穴から現れた、少女は眼鏡をかけていない点だけを除外すれば、不気味なほどティアに似ていた。

「なぜだ。キケロとアレンの親子関係は、否定されたはずだろっ!」

 ファウストは叫んだ。自分たちが信じて守ってきた【尊き青バラの血ブルーローズブラッド】がじつは虚実だったと知った時、膝の下が崩れ落ちるほど、ファウストはショックを受けたのだ。
 自分たちが、命を懸けて守ろうとしたものは、一体なんだったのかと。

 それが勇者アレンが女性で、しかもオルテの末姫であるティアと似ているなんて、もはや訳が分からない。

 ファウストの叫びに答えないアレイシアは、つかつかとアステリアの方に向かい彼女を介抱する。抱きしめて頬をよせ、アレイシアは紫の瞳から涙を零した。

「なにもかも終わらせるなら、アタシだって好きなことをしたいわ。ねぇ、アスティ」

 アレイシアは魔導姫を愛おし気に愛称で呼ぶと、アステリアの顎を持ち上げて彼女の唇を塞いだ。

……んっ、ん。

 舌と舌が絡み合い。反射的に腰をひっこめるアステリアを、アレイシアが面白そうに太もも同士を絡ませて、娼婦のように腰を振る。

 魔導姫のわずかな違和感と反応に、ファウストとゼロは、ある可能性が浮かんで顔を歪ませた。
 アステリアは――両性具有アンドロギュノスだったのだ。

「……ん、はぁっ」

 魔導姫とのディープキスを終えたアレイシアは、アステリアの前にひざまずき、彼女の手を取った。そして手の甲にキスを落とすと、今度は耳元に近づいて唇を触れさせてからアステリアの腹に触れた。
 まるで愛おしむように何度も優しい手つきで腹部に触れてから、そっとへそより下の部分を撫でると、アステリアは恥ずかしそうに身をよじらせる。

「500年間、アタシがどんな気持ちだったか、分かる? アスティが欲しくて欲しくてたまらなかった。両性だって知った時、アスティと結ばれることが分かって嬉しかったのに……なるほどね」

 アレイシアは魔導姫の耳たぶにキスをし、最後に白い首筋を舌で舐めてから強く肌に吸いついた。小さな赤い跡が残り、アステリアの白い肌の上に赤い花弁が落ちる。
 魔導姫の首筋に顔を寄せてうっそりと微笑む顔、紫の瞳の奥で蠢くどろどろとした恋情は、見ているファウストとゼロの背筋を冷たくさせた。

「こんな時になって皮肉ね。お互いの生体ナノマシーンで同調で、ようやくやっと分かり合えたのだから。本当にアタシたちってバカね」

 青い電流が二人の身体に行きかい、アステリアの身体があった場所に青い球体が現れる。

「あなたの鎖、あなたの業は、アタシが引き継ぐから安心して」

 そう言って、アレイシアはうっとりと球体を抱きしめる。

「もう、アタシはあなたを離さない。絶対に、離してあげないんだから」

 マナのうねりが風を呼び、勇者の猫毛を撫でた。
 球体がアレイシアの傷だらけの身体に入って行き、アレイシアの姿だけがその場に残る。
 ファウストは呆然と立ち尽くし、なにが起こったのかをなんとか理解しようとしていた。魔王の復活かと思ったら、勇者アレンことアレイシアの帰還なのだ。

「あの、あなたは……」

 彼女に対して、どのように接したらいいのか分からず、ファウストは声をかけるようとすると、アレイシアの紫の瞳が強い光を帯びて、ファウストを見る。

「あぁ、そうだ。アタシはあなたを知っている。あぁっそうだっ、知っていた。知っていたんだっ! ずっと頭の中に木霊する声に逆らえずに、このバカバカしい、運命の輪の中でアタシはずっとなにも知らない奴隷になっていた。くだらない、ほんとうに、ほんとうにっ! くだらないっ!!!」

 興奮がさらなる興奮を呼び、アレイシアの言葉に狂おしい熱が宿る。
 なにがどうなっているのか分からないが、ファウストとゼロは悟るのだ。
 事態が悪化したことを。

【つづく】

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