書き出し_休載小説の話をなんとか終わらせよう_アステリアの鎖 51

「世界……ですか?」

 ティアの発したスケールの大きい話に、ファウストの顔つきが変わった。冷たく鋭い視線で、出会った時のように警戒心をひそませている。彼の表情の変化に、ティアは学会での発表を思い出した。

 魔媒晶《マテリアル・ストーン》の欠陥と深刻な土地の汚染。
 ヘルメス教授が採取した汚染土と、魔王が汚染した土の成分がほぼ一致した――このデータは魔媒晶《マテリアル・ストーン》がもたらした産業革命でにぎわう世界に冷水をかける行為だ。
 だから認めない。認められないのだ。
 自分たちの都合の悪いデータに対して理解を放棄し、一蹴して笑い飛ばして最後に拒絶する。

「そう。アステリアは魔王を封印した後、汚染した土地を勇者アレンと共にまわって浄化しました」

 それが、現在から換算して約500年前の話。
 魔導王国オルテュギアーの第二王女【アステリア】が魔王を封印する方法を考案し、勇者アレンと共に魔王の封印に成功した。

 世界は歓喜に包まれた。魔物は生殖で増えることが出来ないため、確実に数を減らし、土地は緑の息吹を取り戻し、海と空は本来の澄んだ紺碧色に、魔王に汚染された土地はアステリアが浄化の魔術を行使したことで、再び人々が住める土地となった。
 
 人々は感謝し賛美する。勇者と、そして魔王を倒しただけではなく、荒廃した世界を蘇らせた天才魔導姫のアステリアを。
 彼女の頭脳が無ければ、魔王を倒したところで、今度は汚染されていない土地をめぐって国同士の抗争が始まっていただろう。

 それは、魔王を倒すという単純な構図は存在せず、妥協と落しどころを見つけなければ永遠に争い続ける――新たな暗黒時代の幕開けともいえた。
 先の見えない戦争を回避し、なんの見返りもなく土地を浄化してまわるアステリアを人々は歓迎した。

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