書き出し_休載小説の話をなんとか終わらせよう_アステリアの鎖 45

 意識すればするほど、ファウストと父との類似点が見つかって、彼の顔をまともに見られない。

 わたしってこんなにファザコンだったの?

 確かに異常な家庭環境だった。半分しか血のつながっていない姉二人、父は二人の姉たちの教育係兼養父のポジションで、母はいないも同然だった。王宮の近くにある北の離宮だけが幼いティアの世界であり、使用人たちは必要最低限しかおらず、その小さな世界の中心に父がいた。

「姫様、具合でも悪いのですか?」

 心配そうにのぞき込んでくるファウストに、思わず身体ごと視線を外す。ばつが悪いどころの騒ぎではなかった上に、この男の飄々とした態度が解せなかった。

 父だったら、こんなふうに接しはしない。
 この男は明らかに父とは別人なのに。

――父と似ていることで、こんなにも心が乱れるなんて思わなかった。

 思い入れが深ければ深いほど、胸に深く沈めた想いが、理不尽な現実に反発して怒りに近い苛立ちを連れてくるのだ。
 勇者のアレンの【髪の色と瞳】――カルティゴの国民たちがティアに対して感じているわだかまりを、今の彼女は理解できた。
 しかも緊急時とはいえ、キスを許し、この男の血肉をすすってしまったこと、夜族の血のせいとはいえファウストに欲情した自分自身の罪深さに頭を抱えたくなる。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?