書き出し_休載小説の話をなんとか終わらせよう_アステリアの鎖 90

「それは、そうさ。イーダスはブラコンを拗らせた嫉妬深さで、裏でも表でもユリウスの人間関係をズタズタにしていた。特に、女性関係に関してはユリウスは慎重に隠していた。それが裏目に出ちまったんだ。オレが無事だったのは、イーダスのお眼鏡にかなっただけに過ぎない」

 突然飛び出した父の名前に、ティアの紫の瞳が見開かれる。

 今、なんて、言ったの?

 信じられないと顔を強張らせているティアに対して、カーラは横からそっとティアの肩を抱き寄せて、彼女の持っているトランクを自分の手へを握らせた。小さなタイヤのついた重量のあるトランクには、ティアの研究機材が詰め込まれており、ティアの心を守るようにカーラはトランクの取っ手をぎゅっと握りしめる。

「ファウストにも殿下にも聞きたくない話題なのは知っている。なるべく傷つけないように配慮していたせいで、信頼を失ったことも……ただ、これだけは信じてくれ、オレはお前たちの味方だ」

 喉を震わせて訴える声に、ティアが慌てて振り返ると青灰の瞳にぶつかった。真っ正面に見据えるプルートスの顏に、ティアは動揺しながらも頭の中で情報を整理して、なにかを言わねばと気持ちがはやった。

 やがて、道路が二手に分かれて一方は下り坂の先が砂浜へと続き、もう一方は急なカーブを描く登り坂になっている。

 先導するファウストは無言のまま下り坂へと進んだ。

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