書き出し_休載小説の話をなんとか終わらせよう_アステリアの鎖 87
「ファウスト殿、大丈夫ですかっ!?」
ティアが慌てて背中をさすってやると、胃液しか出なくなってからもしばらく嘔吐が続いていた。カーラが手をかざして回復魔法を唱えて、プルートスは魔法で真水を出して「このまま口をゆすげ」と部下に命じる。
プルートスの交差した手のひらから溢れ出す、ゆるやかな水の奔流を口に受けて、ファウストは自分を取り戻すように、自分の一つ一つの動作を確認するように口をゆすいで、吐き出したゲロの横に水を吐き出した。
苦しそうに呼吸を整えるファウストは、/翠色の瞳を瞬かせて、血の気の失せた唇を悔し気に震わせた。ショックを受けたというよりも、強い怒りを感じさせる顔をプルートスに向ける。
「警視総監殿、知っていたのか。自分の父のことをっ!」
荒々しい言葉遣いになったファウストに、プルートスは青灰の双眸を細めて、苦笑を浮かべて肯定して見せる。
その表情は、どこか寂しそうで懐かしむような、複雑な感情が入り混じったもので、ティアはプルーストの心の中に何があるのだろうかと思いながら、二人のやり取りを見守った。
もしかしたら、自分の父に関わることかもしれないという直観もあったからだ。彼らの根深い問題と前回の王位継承の儀式、25年前の出来事がじわじわと現在を侵食し、大きな壁となって、自分たちに立ちはだかっているような気がするのだ。
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