書き出し_休載小説の話をなんとか終わらせよう_アステリアの鎖 39

 フロントガラスから火花が見えた瞬間、ティアは反射的にカーラの頭にかかっている純白のベールをはぎ取った。このベールは強力な衝動抑制装置であり、ゴルゴーン種の血を引くカーラの食人衝動を抑制するとともに、彼女の兄弟ともいえる頭の蛇たちは、普段はベールの力で眠っている状態だ。

 はぎ取ると同時に、ユニークスキル【月の女神(トリウィア)の手】を発動させてカーラの魔力リミッターを解除し、さらにカーラの蛇を操ってプルートスに接触させ、彼にも同様に魔力リミッターを解除させる。
 これで賊への襲撃と、防火・鎮火の問題が解消できた。そう思っていたにだが……。

「っは、あはははは……」

 狂ったように笑い賊たちを蹂躙するカーラ。淡々と海水をくみ上げて賊たちに拷問かけるプルートス。あまりの凄惨の光景に呆然とし、自分を守ろうとするファウストの存在で、ようやく意識が現実へと追いついてきたのだが。

「……っ」

 自分を守ろうと抱き寄せられる力。密着して感じるしなやかな筋肉に、全身の毛穴がぞわりと開く。
 今まで知ることのなかった異性の肉体を意識し、命の危機という恐怖が、濃厚な血臭の嫌悪感が、人体が破壊される音が、悲鳴の合唱が、残虐な行為が、なにもかもが心地よく感じ始めている。

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