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書き出し_休載小説の話をなんとか終わらせよう_アステリアの鎖 170

 散漫になる意識をよそに、繊細で白く粘つく糸がファウストの身体を拘束し、強靭な力で締め上げていく。

 呼吸が苦しい。

 抵抗する間もなく、全身を絡め取られて身動きが取れなくなる。
 ファウストの目の前には、半透明の粘液で濡れた巨大な蜘蛛がいた。
 天井にはりついて、第三魔法の燭台に照らされた巨体が白銀の身体を美しくも禍々しく浮かび上がらせる。

 ファウストを見つめる8つの瞳。
 見覚えのある――上が赤く、下にいくほどにトパーズ色に変わっていくバイカラーの瞳に、嫌な予感と忌まわしい可能性が浮上して全身に鳥肌が立った。

「アハハハハ。瞬殺だったね、アステリアぁ。うんうん、すごいよアマーリエ。さすがぼくの娘だねぇ」

 ま、まさか。

 陽気な声には聞き覚えがあったが、それがファウストの混乱に拍車をかけた。
 本来ならばここにいるべき存在ではない個体。
 しかし、25年前にユリウスが編み出した第三魔法が漏洩したというのならば、あり得るかもしれない事象。
 ファウストの魔導の上位互換だとするのならば、仮の肉体を作って遠隔で操作できる完璧な魔導人形が出来てもおかしくはない。

「アポロニウス」
「やっほー」
「……」

 ファウストの呟きを肯定するかのように、陽気に笑うエルフの王と傍らに立つ赤髪の女性に気づいて、ファウストは思わず悲鳴をあげた。

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