書き出し_休載小説の話をなんとか終わらせよう_アステリアの鎖 49

「そんな、あなたは十分すごいですよ」

 ティアの言葉を聞いて、ファウストは嬉しそうに微笑んだ。どこか複雑な感情を滲ませて、無理して唇を釣り上げている顔。優しい言葉よりも自分を責める言葉を望んでいる瞳に、ティアはいいようのない息苦しさを覚える。

 彼を責める言葉なら無限に吐くことが出来た。
 仲の良かった姉の死、殉職した姉の護衛たち、公務中に襲撃に遭った一番上の姉と母、犠牲になった青バラ(親戚)たち……。
 肉体の制限を無視すれば、ファウストが気づいて防ぐことができた悲劇が多すぎた。それでも彼がこの場にいることを許されて、ティアたちを前線で守る立場にいる。
 それ以上に、待合所でプルートスが必死に彼を、此岸(しがん)につなぎとめようとしている優しさを(知らない人からいたら往復ビンタだが)観たからこそ、厳罰として辛い言葉を望む、彼の甘えを許すわけにはいかない。

「わたしの方も安心しました。ファウスト殿も顔色がだいぶ良くなったようで」

 だから見えない傷口にわざと塩をすりこんで、彼自身に責任を自覚してもらう。彼はティアの親戚である以前に【魔導王国オルテュギアー 王立警察 警視総監補佐 ファウスト・メレアグロス】なのだから。

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