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【マルチ投稿】アステリアの鎖_第十二話【回想】
「こ、これは、わたしが確信していることを正解に導いてくれる道具です」
ティアの声が震えた。自分を映す翠色の瞳は冷ややかで、まるで見知らぬ他人を見るような視線だった。信頼関係が崩れた相手を納得させる方法をティアは知らない。そして、彼女は少女であり、相手の心が分からないがゆえに、自分の曖昧な言動がファウストの疑心を煽ってしまったことを察することができない。
「ティア様、ここは下手にごまかさないで誠意を見せる場面ですよ。ちゃんと自分の言葉で、この研究機材がどんなものであるのか、話した方がいいです」
話を促すカーラは微笑した顔のまま、冷たく光る青い瞳をファウストに向ける。
「どこから話して良いのか分かりませんが、オルテの王家はずっと隠していたことがあります。その謎を暴けばアステリアから世界が解放され、今回の王位継承の儀式が最後の儀式になるはずだと、ヘルメス教授は考えました」
「……それは、この国の平穏を脅かしますかね?」
どこか歯切れの悪いティアの言葉に、プルートスが口を挟んだ。
「少なくとも、わたしは世界を救います」
即答するティアは、自分自身の言葉にうすら寒さを覚えた。
直面して気づくのだ。
物事はそう単純なものではないと。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
これは罰なのですか?
世界を救う。復讐を果たす。悪を倒し、正義を成す。
自分は完全に正しい側に立っている気でいた。
だからこそ、納得できないこと、理不尽だと感じたことすべてに、不信感を持ち周囲を疑い続けた。
それが今になってオルテの末姫は揺らぐ。下り坂の道路のせいで、足元が揺らいでいるのではない。
自分も疑われる側になって初めて、ティアは自分の行動に疑問を持ち、世界を救っても自分の望んだ結末が舞っていないことに気づく。
いや、いっそ気づかないまま、盲目に突き進んですべてを終わらせたかったのかもしれない。
「姫様の世界を救うことは、オルテの国益になるものですか? 魔王の脅威から世界を開放することに繋がることなのでしょうか? どうなんですかっ!!!」
ファウストは吼えるように恫喝した。声だけでティアを打ち倒そうとする怒気があり、ティアを身をすくませて顔を白くさせる。
「ファウスト、落ち着け! 姫様はまだ17だ! まだ世間の酸いも甘いも知らない学生だっ!!! 甘っちょろい理想論ぐらい許してやれ、それにここでグラグダ時間を食ってどうする? お前が怖いのは分かるが、落ち着くんだっ!!!」
慌てて割って入るプルートスは、青い魔力の靄を全身に漂わせていた。
このままヒートアップすれば、プルートスによって制裁され、想像を絶する苦痛に悶えることになる。絶対的な力の差を知っていることで、ファウストは落ち着きを取り戻したものの、余裕のない表情が晴れることはなかった。
暗く淀んだ翠色の瞳が、ティアにプルートス、カーラに向けられて、耐えるように唇を噛む。
「ホウ」
「…………」
ファウストは目をつぶり、右肩に乗っかっている使い魔のフクロウの羽毛に顔をうずめた。まるで頭を冷ましているように、それでいて、泣き顔を隠すかのように。
「……」
「……」
「……」
しばしの沈黙が続き、ティアは不安げに眉を寄せて、プルートスとカーラを見つめていると、彼は小さく息を吐いてから再び目を開いた。
「ちゃんと答えてください、姫様。あなたはこの薬剤でなにを確認用としたのですか。あなたの言葉で、あなたの意思で」
「…………わたしの言葉?」
思いがけないファウストの問いかけに、ティアは虚を突かれたように呆然とつぶやく。
この男がなにを言っているのか理解できない。
自分たちはいまのいままで、普通に会話をしていたではないか。
初めてを捧げ、弱さを見せ、頼り、意思を伝え、決意表明をし、お互いに息を合わせて尋問もした。それでも尚、ファウストはティアの意思を疑うのだ。それはまるで帰国する前の自分のように。カーラしか信じることができない、取り巻く世界が敵だらけであると思い込んでいた自分のように。
「わたしはカルティゴで、自分の身分を利用して、勇者アレンの遺髪から血統のデータを抽出することを許されました」
勇者の死体は、故郷であるカルティゴに帰ることはなかった。
アレンは元をただせば、奴隷に近い下級市民だったことで戸籍も残っていない。カルティゴが故郷であるが、どこの誰であるのかをアレンは話すことも、記録に残すこともなかった。
アレンの訃報を受けて、カルティゴは勇者の遺体を切望したが、オルテはアレンの遺髪だけをカルティゴに送った。
これは王に憑りついたアステリアの意思だった。
カルティゴは勇者アレンの故郷が不明なのを良いことに、風光明媚で交通の便がいい場所を勇者の故郷として認定し仰々しい墓を作った。
公務で毎年、アレンの墓参りをしていたティアは、墓石に刻まれたメッセージに形のいい眉をしかめて内心で吐き捨てる。
【いつか勇者が、故郷の地に帰ることを信じて】
なんて耳障りの言い言葉だ。
反吐が出る。と。
「わたしは、アメリ―お姉さまのいる試練の間へ合流する前に、勇者アレンの息子であるキケロの遺髪から、血統のデータを採取したいと思っています」
カルティゴ人は当初、遺髪の提供に難色を示していたものの、ヘルメス教授の存在が大きな後押しとなって、ようやく採取が許された。
勇者の本当の故郷の場所が特定できると、教授が力説したからだ。
いくらティアが勇者直系の子孫とされ、勇者と同じ色の髪と瞳を持っていても、ものを言うのは現実的な権力だった。
「本当はエステリアの遺髪も使って、詳しい鑑定もしたいのですが、それはすべてが終わってからにしましょう」
言いながら、ティアは地面に置かれたトランクを持ち上げて、隠し通路の入り口に足を踏み入れる。
不信を拭うのは勇気であり、信頼を回復するのは献身なのだ。
ティアはファウストの行動を通じて、疑惑に強張った心がなぜ絆されたのかを思い出す。
それは父に似たからでも、ただ窮地を助けてくれたからでもない、彼の行動に優しを感じたからだ。次は自分がファウストに返す番であり、彼も救いたいと願っている。
通路の奥から漂ってくる黴臭さ、湿った苔の匂い、魔力のうねり。終着点の待ち受けているのは、生きるか死ぬか、立ち向かう勇気を持つか否かの単純な二択。
ただの義務感では太刀打ちできない強大な影が、見えない牙をむく光景をティアは幻視し、誰よりも先に足を踏み出す。
深夜の時間帯の上に、明かりのない通路でも夜族の瞳は昼間のごとく見通し、罠すらも踏み砕くホビット族の種族スキル【万難踏破】があるからこそ、彼女は先陣を切ることができた。
「おい、ちょっと待て。迷ったら、どうするんだ」
「まぁ、そうなったら。時間切れになって、オルテごと暴走した魔力でどっかーんですね」
「…………」
「ホウホウ」
後ろから聞こえてくる、カーラとプルートスのやり取り。バサバサと羽音を響かせて、促すように鳴くアルの声から、ファウストがしぶしぶついてくるのが分かる。
トランクを引きずるようにして歩くティアは、少し上半身をひねって言った。
「【墓場】の場所は、王族が迷わないように仕掛けが施されているのです。わたしの血に反応して、仕掛けが作動するのを確認しました。ですから【墓場】が近くにあるのでしょう」
そう、この地下通路に足を踏み入れてから彼女の前に揺らいでいる、彼女にしか見えない第三魔法――青い鬼火。まるで彼女たちを、先導するかのようにほどよい距離を保って分岐路を右へ左へと誘導してくれる。
「その仕掛けのことは、イーダス様から聞いたのか?」
ファウストは、ティアの言葉を信用していない様子で尋ねた。
「そうです。わたしは、わたしの思い出を信じたいのです」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
まだこの国にいた頃に、父に【王家の丘】に連れてこられた。ペルセからさらに一山を越えた場所。小高い丘に建てられた白亜の教会を模した建物が【霊廟】である。扉を開けると礼拝堂があり、ステンドグラスの窓に囲まれて三枚の大きな絵が参拝客を出迎えるのだ。
正面に勇者アレン。東に妻のエステリア。西の魔導姫のアステリア。
色とりどりの宝石が散りばめられた金縁の額に飾られて、三面の壁に配置された肖像画は、訪れる人々に様々な感情を呼び起こすだろう。
感謝を、畏怖を、そして戸惑いを。
燃えるような赤髪を短く切り揃え、雪のごとき白肌というコントラスト。射抜くような鋭い眼差しの緑瞳が、可憐な顔の造作を霞ませる。
彼女こそ魔導姫アステリア。
彼女の隣にいる青年。マンダリンオレンジの長い髪に、優し気な紫の瞳はすべてを許すような無垢さで、草食動物の瞳に似ていた。常に笑っている口元は肉感的で、鼻が高く、輪郭は女性のように緩やかなカーブを描いている。
彼こそは勇者アレン。
そして、アメジストの髪留めで結い上げられた月光のような繊細な銀髪。瑠璃色の瞳は深い色をたたえて、静かにほほ笑んでいる姿は楚々とした印象があった。
彼女は、オルテの第一王女にして、勇者アレンとの間に子を設けた――国母エステリア。
アステリアはイメージ通りなれど、アレンは勇者というには凛々しくがなく、雄々しさには程遠く、勇者を寝取ったエステリアは計算高い女狐というよりは、意思が弱いながらも懸命に生きようとしたいじらしいものを感じられた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
一般の参拝客は、ここから先には進めない。
アレンの肖像画が見下ろす場所――壇上に隠された階段を下った先に、大きな広間がある。
この場所が【試練の間】である。
一見すると魔法の炎が灯された、大理石の大広間に見えるだろう。
広間の中央に描かれた魔法陣と、魔法陣の中央にそびえ立つ血で固めたような深紅の石柱が存在しなければ。
広間に降り立った幼いティアは、石柱を目にした瞬間に悪寒が走り、言葉では説明できないおぼましいモノを感じた。
ローズピンクの下地に白い斑点と、黒と灰色の帯状の独特の模様、ピンクの濃い部分がサーモンピンクに近く、まるで人体に潜り込んでしまったかのような生々しさがあった。
床を削って白線を引いたように描かれた魔法陣は、幾何学模様の花が広がっている華曼荼羅。中央の石柱が花芯のようにもみえて、荘厳で美しく……見えなくもない。
だがわかるのだ。本能が表面的な美しさよりも、この部屋に積み重ねられた濃密な過去を察知し、脳内に警告音を響かせる。
隅々まで清掃が行き届いているのに、漂ってくるのは濃厚な血の匂い。聞こえてくる苦痛にまみれた亡者の呻き、そして未来をすり潰された絶望。
青いバラは多くの血肉を吸って、ようやく花を咲かせるのだ。
「さぁ、ティア。お墓参りだよ」
優しく促す父の声が無ければ、幼いティアは泣いて進むことを拒絶していた。姿の見えない蠢く存在が、自分たちを恨みをこめた目で見ている気がして、父に自分の恐怖を悟らせないように、花が刺繍されたワンピースのスカートの部分を握りしめる。
姉二人の不在が、こんなにも自分を不安にさせて、心細い気持ちにさせるなんて思わなかった。
お父さま、お手てつないで、おめめ見せて……。
縋りつきたい、ぬくもりを感じたい、もっと優しくして欲しい。
「はい、お父さま」
本音を押し隠して、良い子の仮面をつけるティアは必死に恐怖と自分自身に耐えながら、恐々と肉色の大理石の床を踏む。
カタンと鳴る靴音と、靴底に感じる硬い感触、そして背筋をはう冷たい感覚。踏みしめるごとに、苦痛のうめきが聞こえてきそうでティアは泣きたくなった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
いつからか、イーダスはティアに対してよそよそしい態度を取るようになった。愛情が失せたからではなく、愛情があるからこそ娘との距離をとろうとする父の態度は、幼い彼女を混乱させて、まさか自分がなにかをしたのではないかと自問自答して頭を抱える。
父の隣を歩き、魔法陣を踏み、石柱を横切り、ティアたちが近づくと、なにもない壁から大きな扉が現れた。隠ぺい魔法による仕掛けだった。
ドアノブに手をかける前に、ギィイっと重々しい悲鳴のような音が響き渡って扉が開く。現れたのは一本道の通路であり、道の先で中型犬ぐらいの大きさの青い炎がぴょんぴょん跳ねている。
「きゃあっ」
恐怖の限界値に達したティアは、悲鳴をあげて父のローブに縋りついた。大きな紫の瞳に涙をためて、訴えるように父を見上げる娘の姿。しかし、困った顔をうかべて縋りつく娘を見下ろすイーダスの瞳には、慈愛や優しさといった感情は宿っていなかった。むしろ、嫌悪に近い冷淡さが浮かんでいた。
冷ややかさを宿した翠色の瞳は、カワセミの羽根の色というよりも、月光に照らされた迷いの森に似ていて、見つめられると首を締められたように息苦しい。
幼いティアは愕然とした表情を浮かべて、父から離れようとする。けれども、彼女の父は娘の肩を掴んで引き留めると、作り笑いを浮かべて言うのだ。
「ティアが見えているのは、第三魔法の王族にしか見えない鬼火だよ。私達をお墓に案内してくれるんだ。だから、なにも心配なんていらない。それに、どんなことがあっても、ティアはお父さまが守るからね」
父の声は真っすぐに響いて、嘘がないことが混乱する。
連行するように娘の小さな手を引いて、通路を奥の奥まで進み、突き当りのドアを開けると、目の前には三又に別れた分岐路があった。
「ティア。鬼火はどこにいるんだい?」
「……こっち」
ティアが鬼火のいる通路を指さして、長い通路を進む。分かれ道を右へ左へ、西へ東へと進んでいくと、やがて開けた場所に出た。
石櫃が無数に置かれた円形の広場。石櫃の蓋には人名らしき文字と長方形の窪みがあり、ほつれた髪の毛が枯れ枝に絡まって窪みに収められている。
「ここが王家の墓場――王家の者たちが【オリーブ園】と呼んでいる場所だ。私がここに眠ることは許されないが、ティアたち青バラは、オリーブの枝に遺髪を結んで葬られる。こんな風にね」
石櫃のひとつに歩み寄るイーダスは、窪みを指さしてティアのマンダリンオレンジの髪を見た。その時の父の瞳には強い敵意があり、その敵意が自分を通り越した向こう側にいることを、幼いながらに直観して理解した。
自分は父に嫌われているわけではない、しかし、父が自分に対して真っすぐに愛情を注げない原因が、この先にあるのだと――。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
時間が進む。
王家の墓に再び足を踏み入れたティアは、石櫃の間を縫うように歩いて、ひときわ大きな石櫃が三つ並んでいる場所に踏み入った。
蓋に刻まれた名前は、向かって左から【アレン】【エステリア】【キケロ】が続き、世界を救った魔導姫【アステリア】の石櫃がその場にいない。
「あら、アステリア様の石櫃がありませんねぇ」
「……彼女の死体は、見つかっていないのよ。皆の前で自害したけど、次の瞬間に遺体が喪失したと記憶に残っているわ」
世間的には病死と発表されているが、実際はアレンを奪われたことによる、当てつけの自害ではないかとされている。
そしてアステリアの後を追うように、勇者アレンもこの世を去った。
世界を救った勇者と魔導姫の呆気ない死。
こんな為政者にとって、都合の良い展開がありうるでしょうか?
もう500年前のことであり真相の究明は困難であるが、人間種であるアステリアはこの時に死んだのだとティアは考える。
「まぁ、闇が深いこと」
そう言うカーラは、長い金髪を四方八方に広げてのほほんと笑う。彼女の髪に擬態している蛇の兄弟たちが、周囲の視覚情報をカーラに送っているのだ。普段眠りについている蛇たちが目を覚まして、各々の意思のもとで活動している事態に緊張が走る。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
儀式に参加する青バラは、儀式をする前にあらかじめ立ち合い人からオリーブの枝を渡される。髪を切りオリーブの枝に括り付けて、用意された空の石櫃にオリーブの枝を収めるのだ。
ティアは参加を表明したため、ティアのために用意された石櫃がここにある。アマーリエの石櫃も、母であるカーリアの石櫃も。
青バラたちの生きた証。
わたしと彼らの生に、はたして意味はあったのだろうか。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「持ってきた研究資材は、カルティゴで血統鑑定に使われているモノを、わたしなりに手を加えています。親子鑑定が可能である精度……といえば、よろしいでしょうか」
世界が平和になった後も、多種族による異種婚が続いた。
そうなった背景にはオルテュギアーの王位継承の儀式と、アステリアが遺したとされる玉座の石碑が、王の伴侶に異種族を指名していたのが大きい。
石碑がなにを基準に、伴侶を選定しているのかは分からない。ただ、石碑に触れた者が何者であろうとも、反応すれば青バラを咲かせる栄誉を授かるのだ。
それが夜族だろうとも、人の形していない化け物だろうとも、漂着した異界の民だろうとも。
異種婚は平和の象徴であり流行、すべてが等しくなることで真なる平和が訪れると……そう思われていた。
「ただでさえ異種婚が続き、わたしたち混血晶は複雑な問題を抱えているのです」
臓器の変形。
免疫力の低下。
生殖異常。
突然の老化。
衝動の抑制による精神崩壊。
「自分の血統のみならず、両親の血統も視野に入れて、いえ、もしかしたら自分の先祖に至るまで、血統鑑定が必要になる時がいつかくるのでしょう」
空いているスペースにトランクを置き、口にマスクを当て、ピンセットを取り出すティアは、石櫃の窪みからキケロの頭髪を摘まみ上げた。マナの保護剤が付与されているとはいえ、約500年前まで残っている死者の毛髪。水分を失い縮れている毛は黒ずんでおり、勇者アレンと同じマンダリンオレンジの色味が失われていた。
やや感傷的な気持ちになりながら、ティアは研究室でいつもしている実験の要領で、丁寧にオリーブの枝から毛髪を解いて、水晶の瓶に入った薬剤にキケロの髪を入れていく。
急がなくてはいけない。この先にある【試練の間】で、姉たちがテロリストと対峙しているのだ。姉には生き残ってもらわなくては困る。もしも、自分がダメになった時の場合――この国を統治するために。
毛髪が溶けた薬剤をガラスの棒でかき混ぜて、紫に変色した薬剤を手のひらサイズの試験紙に垂らすと、接触した部分が真っ赤に染まった。
「あぁ」
ティアは脱力したように呟いた。
【つづく】
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