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ガムシャラなプラシーボ、シャラガム/ドラえもんミニ考察⑬

『シャラガム』(のび太の決心)
「小学六年生」1976年3月号/大全集3巻

「小学六年生」3月号の特徴

学年別の繰り上がり連載をしていた「ドラえもん」は「小学六年生」3月号がその学年にとっての最終回となる。よって、最終回を意識した未来へのメッセージを込めた作品が描かれることが多かった。

一応リスト化しておくと・・

1975年3月号『ツチノコ見つけた!』
1976年3月号『シャラガム』
1977年3月号『りっぱなパパになるぞ』
1978年3月号『あの日あの時あのダルマ』
1983年3月号『のび太もたまには考える』
1984年3月号『のび太の息子が家出した』
1985年3月号『右か左か人生コース』
1986年3月号『具象化鏡』

一本一本の説明は今回は省くが、いよいよ来月から中学生という読者に向けたエールが作中で贈られている。ドラえもんには「最終回」はないと言われているが、ミニ最終回は少なくとも上記8作は存在しているのだ。

本作では、もうすぐ中学生を意識したのび太の奮闘が描かれる。粋な終わり方も含めて、卒業生への応援歌として受け止めてみたい。


のび太の決心

本作の初出タイトルは『のび太の決心』であった。このタイトル通りに、のび太は決意を固めて帰宅してくる。その決意とは、帰ったら3時間みっちり勉強する、というもの。

将棋の続きを誘ってきたドラえもんや、おいしいケーキを焼いたというママの誘惑を断ち切って、勉強部屋で一直線。「こんどこそやりぬくぞ」と筆書きして決意表明する。

「僕ももうすぐ中学生。この辺で真剣に人生と取り組まねば、永久に取り残されてしまう」

そんなのび太を見て、ドラえもんとママは冷ややかな反応。半年にいっぺんの割合で発作的に決心するのだが、2~3日から一週間程度でその熱は収まってしまうようだ。

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やり抜けないのび太

勉強を始めるのび太。さっそく難問にぶつかって鉛筆が止まる。精神を集中させると眠ってしまう。我に返ったのび太は「こんなだらしないことでどうするんだ」と言って、しずちゃんにヘルプの電話をする。

「やりぬく」と言って家を飛び出していったのび太だが、30分経ってもしずちゃんの家に着いていないと電話が掛かってくる。ドラえもんが様子を見に行くと、途中の空き地で女の子たちをボール遊びに興じている。

ドラえもんの姿を見て、気まずくなるのび太。ドラえもんも呆れて何も言えない。のび太は「やり抜くための機械」を出してくれと頼むが、「君はすぐに僕を頼ろうとする」とドラえもん。

ドラえもんに頼る →依存体質 →でも頼らないともっとダメ人間

という悪循環が浮彫りになるのであった。

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まさかのプラシーボ(偽薬)・シャラガム

悪循環を断ち切るべく、のび太のオーダーは「はじめだけ手伝ってくれればいい。自信さえつけばあと一人でやれるから」というもの。

そこでドラえもんが出した道具は「シャラガム」。ガムシャラのダジャレである。丁寧に「SHYRA GUM」と印字されたガムで、これがまさかニセモノ道具だとは思えない。。

ドラえもんの言うには、「このガムを噛むとガムシャラになる。やろうと思ったことは何でもやり遂げる力がつく」というもの。のび太は5分以内にしずちゃんちに行き、分からないところを教わって20分以内に家に帰って勉強を続けるという決意を固める。

ここでオチをばらしてしまうと、このシャラガムというひみつ道具はない。ただのガム、いわば偽薬(プラシーボ)なのである。

「ドラえもん」では本作のように本物ではないひみつ道具が少なくとも3つある。それが「シャラガム」「ウルトラよろい」「うつつまくら」である。「うつつまくら」は記事化しているので、「ウルトラよろい」も近く紹介しておきたい。

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誘惑VSのび太

本作は冒頭からのび太のママがケーキを焼いてくれたりと、のび太への誘惑が強い回となっている。この後も、のび太の決意を揺るがすことが連発する。

スネ夫→「少年サタデー」を見せてくる
しずちゃん→面白いゲームを買った
安雄→ジャイアンが待ち伏せしているのを教えてくれる
ジャイアン→のび太を殴ろうとしている

のび太は誘惑のたびに「自分との戦いは苦しいなあ」と逡巡する。もしシャラガムが本物ならば、ここでのび太は苦労することもないのに・・と思われる。

のび太はジャイアンに対しても突っ込んでいき、殴られながらも走って家まで逃げていく。ボロボロになりながらも、20分以内にたどり着いたのび太を、「やった!」とストップウォッチ片手のドラえもんが出迎える。

そしてここでシャラガムのネタバラシ。

「さっき渡したガムはおかしだよ。君は自分の意思の力だけで、やり抜いたんだ!」

このニセモノを渡したことは、ドラえもんに頼る→依存体質→でも頼らないともっとダメ人間という、悪循環を断ち切ろうとするドラえもんの粋な計らいであったのだ。

ところが、やる気になればやれると知ってしまったのび太は、

「安心した。勉強は後にしよう」

と寝転がってしまう。悪循環は簡単には断ち切ることはできないのだなあと思う粋なラストでありました。

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「ドラえもん」ミニ考察もたくさんやっています。


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