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プロポーズを言い出せなくて~パパとママの婚約秘話/考察ドラえもん⑤

『プロポーズ作戦』「小学四年生」1971年11月号/大全集1巻
『正直太郎』「小学三年生」1973年9月号/大全集4巻
エスパー魔美『雪の降る街を』「マンガくん」1978年4号/大全集3巻

いきなりだが、既婚者の方に伺いたい。あなたは婚約した日を覚えていますか。

さすがに結婚記念日は忘れ難い。毎年祝うだろうから記憶も新鮮なままだし、仮にこれを失念したとなると、夫婦の危機となるから、意地でも忘れられない日となっている。でも、「婚約記念日」をどれほどの割合の人が覚えているものなのだろうか。

「プロポーズ作戦」は、連載開始から3年弱で書かれた初期ドラの一本だが、パパとママの結婚の秘密に迫るドラえもんの中でも重要な回である。

冒頭、「今日は12回の結婚記念日なのよ」と、ママが珍しくウキウキと夕食の準備をしている。そこに花束を手にパパが帰宅してくる。

ディナーが始まり、のび太は「二人の結婚したころのこと話してよ」と二人に聞く。この時、先ほどパパが買ってきた花が花瓶に活けてあるのが見切れている。ママが言うには、パパから「結婚してくれなきゃ死んじゃう」とプロポーズされたのだそう。それを聞いたパパは、「話があべこべだ。結婚してくれと涙を流して頼んだろ」とママに抗議する。見解の食い違う二人は、そのまま口論に。

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どちらかが嘘とついているのかと思って「うそ発見器」で調べるが、どっちも本当なのだという。真相が明らかにならないと言い争いが収まらないと考えたのび太とドラえもんは、タイムマシーンでプロポーズの日に行って真実を確かめることにする。

この時、パパとママに告白の日はいつかと聞くのだが、二人揃って「忘れもしない昭和34年11月3日に公園で」と答える。二人とも、婚約記念日をしっかり記憶に刻んでいるのである。

ところで本作の初掲載は昭和46年の11月号で、ちょうど12年前がそのプロポーズの月となる。結婚記念日が12回目と言っていることから、結婚も12年前。つまり、この二人は12年前の11月に、婚約からすぐ結婚という流れとなったらしい。当時はお見合い結婚が多かっただろうが、二人は町でたまたま出会ってからの恋愛結婚である。二人の出会いのエピソードは、本作から10年後、「のび太が消えちゃう?」で描かれるがそれはまたどこかで触れたい。

さて、12年前の公園に着くと、眼鏡を掛けていないパッチリ目の若き日のママ・玉子。そこに約束から1時間遅れで走って現れるパパ・のび助。遅刻の理由に「時計が狂っちゃってね、これだから困るんだ安物は」と軽口を叩くが、これは何と玉子さんからのプレゼントだった。

怒っていってしまう玉子だが、これは彼女のフェイクで、「いいわ、話を聞きましょ」と振り返るのだが、衣服と体形の似た別の男の手を引いて行ってしまう。のび助はそれを見て、プロポーズは止めだと激怒する。

玉子は男に「大事な話ってなあに」と聞くが、反応の薄さを怪しんで眼鏡をかけると、全くの別人なのであった。玉子が眼鏡を掛けていなかったのは、目が悪くなる前だからではなくて、のび助に素顔で会いたかったからなのだ。

慌ててのび助を探しに行くが、今度はのび助が若い別の女性に「お願い!」などとベタベタされている。それを目撃し「あんな人だと思ってなかったわ!」と半泣きで走り出す玉子。実は絡んでいた女の子は、小遣いをせびる妹なのであった。のび助に妹が出てきたのは、恐らくこの回のみなのではないだろうか。

本当は会いたい二人。でもそれぞれ誤解から感情的となり、このままでは婚約はおろか、お別れとなってしまう。そんな様子を見て「このままだと二人は結婚しない、だから君も生まれない」ということで、ドラえもんは「ヒトマネロボット」を使って二人の仲を取り持とうとする。

両親が結婚しなくなって自分の存在が消えてしまうというモチーフは、名作「バック・トゥ・ザ・フューチャー」にも使われていた普遍的なタイムマシーンネタの一つ。「ヒトマネロボット」はコピーロボットみたいなひみつ道具である。

「ヒトマネロボット」をまずのび助に変身させて玉子の所に行かせて、「僕と結婚してくれなきゃ死んでしまう」とプロポーズさせる。うまくいったところで、「じゃ、僕向こうで待ってるね」と不自然にその場を離れて、今度は玉子に変身してのび助のもとへ向かう。そして「どうか私をお嫁さんにして」と泣きながら思いを伝えるのであった。

結局、パパとママが言っていたプロポーズの話は、二人とも本当のことなのであった。本作のエピソードも、結果と原因が逆転している「テネット」型のタイムパラドックス作品となっている。

喧嘩をどう収めようかとタイムマシーンで現在に戻るドラえもんとのび太。すると部屋はもぬけの殻となっており、パパとママは離婚して家出してしまったのかと思いきや、二人は庭で仲良く、「どっちでもいいじゃない。今僕たちは幸せなんだから、それで十分さ」と語り合っているのであった。

とても微笑ましいストーリーであったが、本作のテーマである言い出せないプロポーズ(告白)は、F先生のお話の中で、幾度も登場する。例えば本作の2年後に書かれた「正直太郎」では、ママの弟の玉夫が好きな人に告白できずにウジウジしてしまい、それを助けるお話となっている。12年前はグダグダだったパパまでも、玉夫に対して「思っていることをはっきり言えばいいんだ」などと助言していたりする。

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さらに「正直太郎」からちょうど5年後には、のび太と静香の婚約エピソード「雪山のロマンス」も描かれる。これについては、かなりの名作であるため、別の稿でしっかりと考察していきたい。


そして、「プロポーズ作戦」同様、両親が結ばれなければ自分が生まれない!、という著名なエピソードが存在する。それがエスパー魔美の「雪の降る街を」である。

この作品の細部の説明は割愛するが、主人公魔美が、パパの絵のモデルとなっている間に、パパのママとの出会いの思い出が情景となって見えてくる、というお話だ。道で見かけたママのことが気になるが、なかなか話しかけるタイミングを掴めない若きパパ。言い出せないまま時が過ぎ、ママは見合いの話を受けて故郷に帰ってしまうことになる。

このまま出会って結婚しなくては私は生まれない、と焦った魔美は、パパの思い出に入り込んでパパのコートのボタンを外して飛ばし、思い出の中のママにぶつけて二人の話すきっかけを与えることに成功する。回想の中にテレキネシスを発揮させるという素晴らしいアイディアに満ちた一本で、タイトルにもなっている「雪の降る街を」の曲と雪の情景が印象的な傑作である。ちなみにこの曲は1961年に発表されており、本作初掲載1978年の17年前。魔美が中2の14歳頃だから、ちょうど両親の出会いのタイミングの時の流行歌なのであろう。

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ちなみに「エスパー魔美」は全部で62本(前後編作品を2本勘定)書かれた中編ボリュームの作品で、そのどれもが考察しがいのある傑作ばかり。ドラえもんの考察が一息ついたら、こちらの作品もどんどんと取り上げていきたい。

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