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少女向け短編1955年/藤子F初期作品をぜーんぶ紹介!!⑥

藤子F先生の発表されている著作物の全てを記事にしていくという命題を掲げたこのnote。初期の短編については、なるべく発表順に近い形で紹介を続けているが、今回はその第6弾となる。

今回見ていく1955年は、藤子不二雄がトキワ荘に入居し、メキメキとその力を発揮させ始めた頃である。しかしこの年の年初・正月に里帰りして筆が止まってしまい、大穴をいくつも開けて業界から半分干されかけた頃となる。

コンビでマンガを描いていたのにも関わらず、二人とも描けなくなってしまうという異常な事態であった。

今回取り上げるのは、その大穴事件の前後の作品となる。少女向け雑誌に掲載された5作品を見ていくことにする。

『やっぱり女がいいわ』「なかよし」1955年1月号

『ゆりかちゃん』同様、しっかり者の妹と頼りない兄という人物配置。なので、主人公は女の子である「妹」であるが、「おにいさん」が惚けたり困ったりするというお話となっている。

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『エミ―と魔法のビン』「少女」1955年2月号

こちらも兄妹もの。今回もしっかり者の妹に、頼りない兄。兄は売れない画家で、貧乏暮らし。家賃を払えず、追い出される寸前となるが、そこへ兄がビンを持って現われ、そこから魔法のようにお金を出して、家賃を払い、そればかりか衣服や内装も豪華に変えていく。

この魔法は、兄が買った不思議なビンの効果によるものだった。ところが、このビンを売りつけた男が現れて、言い忘れたことを伝えに来たのだという。このビンは魔力が強く、買ってから13時間以内に他の人に売らないと、地獄に堕ちてしまうのだという。

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この魔法のビン、「ドラえもん」の「しあわせトランプ」の原型とも言えるアイテムである。このような道具を二回出すとは、幸せとはリスクのあるもの、といったF先生の運命論が伺える。

「ドラえもん」と違ってシリアスな展開で進むが、結局欲にくらんだ男に持ちされて難を逃れるというお話になっている。

また、兄から妹が買って不幸を引き受けようとするという泣ける展開もある。

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『うっかりぼうや』「少女」1955年2月号

『エミ―と魔法のビン』のおまけで掲載された感じの1ページ作品。少年に寺田町に案内してもらうと思ったらその子が迷子になった、というお話。寺田町は、トキワ荘仲間のテラさん(寺田ヒロオ)から取られているものと思われる。


『母の呼ぶ歌』「少女」1955年11月号

原稿を大量に落として一度は仕事を失くした藤子先生だが、雑誌「少女」だけは関係を繋いでいたようで、10月号で「ゆりかちゃん」の連載が終わったが、その翌月号で本作が掲載されている。5頁の作品である。

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主人公の女性はみづえちゃん。両親がいない独り身で、伯父と叔母と山の麓の家に住んでいる。遺産として母親から山を引き継いでおり、お墓も山中にある。平凡な山だが、黒原工業という会社がなぜが強引にその山を奪おうとしており、何かの開発を目論んでいる。

黒原は、藤子先生の作品の中で時おり見かける名前で、「腹黒い」性格を意味している。黒原工業の技術者・青木がみづえの側について、黒原の企みを見破るのだが、逆に二人とも命を狙われてしまう。

少女漫画ながら、深刻なトーンで語られる。『エミ―と魔法のビン』のテイストに近く、かつF作品には珍しくファンタジーの要素が入っていないのが特徴的。

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『黄金(きん)のすずらん』「少女」1955年12月号

続けても「少女」掲載作品。今度は平安時代を思わせるファンタジックな時代劇である。主人公は、世にも珍しい金色のすずらんの精の姉妹。擬人化して人里離れた山奥にひっそりと住んでいる(生えている?)。

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人を寄せ付けないまよいの森にいるので、人間が入ってくることは無かったが、黄金のすずらんを摘むと幸運を呼ぶという伝説を信じて、一人の若者が、この森へと分け入ってくる。

精悍な美少年で意志は強く、道に迷いながらも少しずつすずらんの森へと近づいてくる。すずらんの精の妹は、そんな男に興味を持って近づいていく。禁じられた愛、とまではいかないが、すずらんの精と男の間に信頼関係が結ばれてしまい、一時はすずらんを男に摘み取られても仕方がないとまで思うようになる。

本作は、まるでおとぎ話のようなお話で、何か原案となる伝説があるのかもしれない。

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藤子先生の少女漫画は、繊細なタッチと可愛らしいキャラクターが魅力的で、少女向けのジャンルから実績を積んでいけたのも納得できるところ。

藤子・F・不二雄大全集の「初期少女・幼年作品」の巻末の解説で、女性漫画家の水野英子さんが書いているが、当時少女向けの雑誌が増えていた中で、ほとんど男性作家が挿絵も含めて描いていたらしい。水野さんがデビューした「少女クラブ」では、女性作家は長谷川町子だけだったという。

そんな少女漫画黎明期に、藤子F先生は求められた才能であったのだろう。


さて次回の「藤子F初期作品をぜーんぶ紹介!」では、1955年の幼年向け作品を見ていく予定。これまでこのシリーズで、相当貴重な作品をレビューしていますので、そちらもチェックお願いします。


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