クリスマスまで待てない!『日付変更カレンダー』/藤子Fクリスマス2023
クリスマスといえば、ご馳走、ケーキ、そしてサンタさんからのプレゼント。子供たちにとって、これが楽しくないはずがない。
そんな楽しい日は、明日にでもやってきて欲しいと思うのは、子供心としては正しいありようである。
ただ毎日がクリスマスという訳にはいかないので、やはり決められた日まで待つことになる。むしろ、早く来ないかなあと待ち遠しく思うことも、楽しさの一部であると言えよう。
・・・と、ここまでは普通の子供たちのお話。われらが野比のび太は、待ち遠しいなどという気持ちに全く価値を置いていないのである。
そればかりか、クリスマスプレゼントが用意されているのなら、わざわざ待つ必要はなく、今すぐにでも手に入れたいと願う、専ら合理的な思考の持ち主なのである。
本稿では、そんな堪え性のないのび太のわがままが存分に発揮された一作を見ていくことにしたい。
今日は12月23日、日曜日。明日のクリスマスイブには、ローラースケートをプレゼントしてもらうことになっているのび太は、あと一日我慢することもできずに、ママに「どうせ僕が貰うんだから今日出してくれ」とお願いする。
そんなのび太にママは、「クリスマスプレゼントはクリスマスイブに貰った方が気分が出る」と言って、のび太の申し出を華麗にスルーする。
主張が通らなかったのび太は、ここで名言を残す。
のび太は、待つことに喜びを感じるようなロマンティストではなく、貰えると決まっているものならば。一日も早く手に入れたいと考えるリアリストなのである。
そんなのび太にドラえもんは、それならばと「日づけ変更カレンダー」という道具を出す。腕時計タイプで、文字盤の代わりに月日が表示されており、ネジを回して日付を変えるのだという。ぱっと見、22世紀に製造されたとは思えないアナログな道具である。
のび太は「日づけ変更カレンダー」の日付を12月25日に合わせてみる。ドラえもん曰く、この近所だけ25日なるのだと言う。
カレンダーの日付を二日後にしたところで、寝転がりながら新聞を読んでいるパパに今日が何日かを聞いてみる。すると「何をわかりきったことを。今日は25日・・・」と答えかと思うと、キャアと驚き、飛び跳ねる。
今日が日曜日だからゴロゴロしていたのに、いつの間にか会社に出勤しなくてはならない火曜日になっていたからである。
ママも25日だと認知して「クリスマスツリー飾るの忘れてたわ」とバタバタし出すが、「そんなことよりも」とツッコむパパの姿が笑えるところである。
パパが慌てて出勤していき、ママは「どうして勘違いしていたのかしら」などと言いながらクリスマスツリーの飾りつけを始める。のび太は予定通り、プレゼントが欲しいと切り出すが、そこでママから意外な答えが帰って来る。
なんと、まだローラースケートを買っていなかったのである。
「冗談じゃない」ということで、カレンダーを元の23日へと戻す。するとその瞬間、ママが「よく考えたらやっぱり今日は23日だわ」と考えを改める。どういう仕組みがわからないが、カレンダーの日付が変わった瞬間に、周囲の人々の脳内カレンダーも切り替わるようである。
ママは買い物に出掛けていく。少しおめかししているので、近所ではなく都心のデパートへローラースケートを買いに行くことがわかる。
今日はやっぱり日曜だと言うことで、パパが帰宅してくる。先ほど古新聞だと言ってくずかごに捨てた新聞を引っ張り出す。
そこへママがプレゼントを買って帰って来る。「明日の晩までしまっておきましょうね」とママは言うが、すかさずのび太は日付を25日に変更する。
やっぱり25日・・・ということで、のび太はローラースケートをついにゲットし、パパは再び慌てふためいて、会社へと出勤していく。
この一連のくだり、何度読み返しても笑ってしまう。
ここで「日づけ変更カレンダー」の効力について、少し立ち止まって考えてみたい。
ドラえもんは「この近所だけ」効力があると言って「日づけ変更カレンダー」を取り出している。本当に日付を変えるわけではなく、あくまで日付が変わったと勘違いさせる道具ということである。
似ているタイプのひみつ道具に「気まぐれカレンダー」というものがあるが、これは世界中の季節までも変えてしまう強制力がある。それに対して「日づけ変更カレンダー」は、物理的に日時変えるのではなく、あくまで意識を変える働きに留まる。
そこで思うのは、日付を勘違いさせることに、どんな意味があるのだろうか、ということだ。本作ののび太のような使い方以外に、有効な使用法が思い浮かばないのである。
しかも効力は、使用者の周囲のみと非常に限定的なものとなっている。離れた人には効かないので、本作のようにパパが会社に出勤しても、オフォスには誰もいないということになる。考えれば考えるほどに使い道のない道具なのである。
いや、むしろ意味が無いというよりは、勘違いさせてしまうことによる害悪の方が大きい道具であると言えるかもしれない。案の定、この後の展開では、その害の部分がより強調されていき、カオスが渦巻くことになるのである。
ローラースケートを貰ったことを、ジャイアン・スネ夫・しずちゃんに自慢すると、「そういえば25日なのに何も貰っていない」と皆が思う。3人は、日付変更カレンダーを付けているのび太に近づいたので、この道具の有効範囲に入ったようである。
さっそくのび太はローラースケートに乗ってみる。ドラえもんがそっとのび太の背中を押すのだが、坂道になっていたため、のび太はそのまま勢いよく下っていってしまう。
止まる方法を会得していないので、そのまま蕎麦屋の出前と正面衝突してしまい、蕎麦代を弁償する羽目になる。
ところが手元資金は全く残っていないので、両親にお小遣いをお願いすると、「お正月まで待ちなさい」と断られる。
そこでのび太は、「日づけ変更カレンダー」を1月1日に合わせる。途端に、パパとママは、「今日は元日じゃないか!」と飛び上がる。
今度はお正月にしてお年玉を先に貰おうという魂胆なのだが、大人にとっては子供へのお年玉は二の次の話。パパとママは、お供え、注連飾り、お屠蘇、国旗掲揚・・・と、正月の準備に大わらわとなってしまう。
挙句、パパが「明けましておめでとうございます」と近所の人たちに年始の挨拶をし始めたので、これはまずいということで、「日づけ変更カレンダー」を使って、勘違いさせていたことを白状する。
これに対してパパとママは「いたずらにも程がある」と怒り出す。いきなりクリスマスだお正月だとバタバタさせられたので、怒るのも無理がない。
お説教をされ始めたのび太は、ここでカレンダーを4月1日に合わせる。エイプリルフールなので、騙されても仕方がないと思わせたのである。
しかし、これは単なる怒られるまでの時間を引き延ばしたに過ぎない。日づけ変更カレンダーの効力はあくまで近所の人を勘違いさせる程度であり、いつまでも騙し通せるわけでもない。
よってドラえもんは、「あとのこと、僕、知いらない、知いらない」と、のび太の元を立ち去っていくのであった。
ここで、本作の残された疑問が2点あるので付記しておきたい。
まず、日付変更カレンダーを使って騙されていたことを知って激怒したパパとママが、再度4月1日に変更した際に、またもコロッと騙されるのはどういうことなのだろうか。
日付変更カレンダーの仕組みを知ったとしても、何度も何度も騙されてしまう程の強制力がある道具ということなのだろうか。
それともう一点、蕎麦屋の出前への弁償はその後解決したのだろうか。お年玉が貰える年明けまで弁償を待ってもらったと考えればよいのだろうか。
まあ、大した謎ではないが、少々気になったので書き加えることにする。
あと、繰り返しになるが、日付変更カレンダーの真なる用途は、全く持って不明のままである。せいぜいいたずら目的にしか使えないように思うが、どなたか知っている方がいれば、是非ともコメント欄で教えて欲しいでごわす。
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