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藤子Fマニアが見た「あの頃。」

アイドルグループからの「卒業」という言い回し、もともとはどこの誰が使ったのだろうか。最初聞いた時は違和感があったけれど、すっかり定着し、今や会社の退職なども「卒業」などと言ったりするケースもあるとか。

不思議なもので、アイドルが所属のグループを抜ける時に使う一方、アイドルを追っかける側が、ファンを止めるときやファンクラブを抜けたりするときにも「卒業」と使ったりもする。アイドルとアイドルの追っかけ双方が「卒業」という言葉を発して、ファンコミュニティから抜けていってしまうというのも、面白い現象のように思える。

いずれにせよ、卒業という言葉には、「区切り」という意味がしっくりくる。学校を卒業する=学校生活に区切りを入れる、という意味合いから、卒業は節目という言葉の代わりに使われているようだ。


映画「あの頃。」は、そんな節目の中にいる男たち(もしくはアイドル側)の物語であると僕は受け止めた。

小学から中学・高校・大学もしくは専門学校などと学校生活が続く中で、卒業を繰り返して人生の節目を作っていく。それが僕たちだ。

ところが、最終学歴を終えて社会に出ると、その先は区切りが曖昧となる。学校を卒業する、といった分かりやすい節目がない生活に突入し、フリーターになろうものなら、ダラダラとアルバイト生活を続けてしまったりする。どこにも入学していないのだから卒業もしようがない

主人公・劔(つるぎ)は、音楽で生計を立てるのが夢といいつつ、ベースの練習よりもアルバイトに明け暮れ、バンド仲間から三下り半を突き付けられる。劇中、学生時代が人生のピークとか言っているヤツいるよね、というような会話が出てくるが、この時の劔は、まさしくそんな心持ちであったのではないだろうか。社会に出てピークアウトしているのだ。

自分の過去を振り返ってみてもそうだが、学生時代特有のモラトリアム感は、非常に心地の良いものだった。将来の夢を見ているが、まだ実際には足を踏み出していない状況。モラトリアムに浸った仲間同士のくだらないやり取りほど楽しいものはなかった。何かしら共通項がある仲間であれば、簡単に徹夜して語り合い、バカ話が続けられたのである。

本作では、アイドルの追っかけを皆でする、という新しいコミュニティを劔は発見し、そこに加わって再び自分の輝きを取り戻していく。ただファンであるだけでは物足りなくなり、バンドを組んでハロプロ楽曲をイベントで演奏したりする。後に劔は気が付くが、このファンコミュニティは、学生時代のようなある種のぬるま湯、モラトリアムの再現だったのである。

この中で、一番冷ややかな物言いをしていたコズミンは、癌に冒されてハロプロオタクを卒業する機会を得ず、そのまま病床へと伏してしまう。死を間近にしながらコズミンが続ける中二病なツイッターを見て、かつての仲間は「あいつ変わらないなあ」と喜ぶが、それは変わってしまった自分たちとの距離が離れてしまっていることを示す。いつしか、コズミン以外は「卒業」してしまっていたのだ。

そうした、アイドルオタクの生活を、モラトリアムだという風に描きつつ、その一方で、推しがいることで充実した生活を得て、仲間とも通じることができる素晴らしさも描いている。モラトリアムを描きつつ、それを賛美する。これが本作の最大の特徴であり、魅力的な部分であるように思う。

モーヲタを媒介に繋がった仲間、オタ主催のライブに集まるハロプロファンたち。だんだんハロプロと関係ないイベントになっていくが、これは一つの学校のような空間にいる感覚ではないだろうか。文化祭の感覚に近い。そして、学校は卒業しなくちゃいけない。けれど、この学校は戻ってくることができる。卒業解除が可能だ。コズミンの危篤解除、のように。

ところで、劇中、石川梨華のモーニング娘。からの卒業コンサートの模様がインサートされる。「石川梨華、20歳、卒業します」という最後のスピーチを聞いて、まだ20歳? と驚いたのは僕だけではあるまい。あまりに早い卒業だからである。20歳でアイドル活動の区切りをしてしまうその人生のスピード感に、眩暈すらしてくる。この映像は二度も流れるが、アイドル側の「卒業」という側面を強調し、本作のキーワードが「卒業」であることを示している。

ハロプロが導入したアイドルグループの「卒業」と「新加入」のシステムは、その後AKBグループの登場で、定番化・流れ作業化した印象を受けるが、それはともかくとして、AKBなどの活動を見ていると、学園祭を切り取ったような熱狂を意図的に作り上げていることがわかる。

制服のような衣装に身をまとう、お客さんとの近い距離でのライブを行う。毎日が学園祭のような感じなのではないだろうか。だとすれば、アイドルグループ活動は、いつしか「卒業」せざるを得ないだろう。毎日が学園祭で、心身が消耗しないわけがない

本作は宣伝で言われているような、オタク生活(ヲタ活)っていいよね、というだけの単純な映画ではない。アイドルを中心とした生活の、喜びと同時に切なさも描く。ファンの側も、アイドルの側も、である。そしてキーワードは「卒業」だ。

最後に、本作のタイトル「あの頃。」は、当然「モーニング娘。」と対をなしていることを指摘して、本稿を終わりにしたい。

全然Fマニアの視点が入らずすみませんでした。。

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