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『はじめましてパー子です』の幻の続編『砂漠のジン魔人』/考察パーマン④おまけ

『砂漠のジン魔人』
「週刊少年サンデー」1967年7号
藤子・F・不二雄大全集1巻
本稿は『はじめましてパー子です』という「パーマン」における最重要回には、実は単行本未収録の後日談があるという内容となっています。正直かなりマニアックな話になるのでご注意下さい。

本稿を楽しむためには、是非とも前回の記事をご一読下さい。

『はじめましてパー子です』の振り返りから。

『はじめましてパー子です』は、パー子の初登場に目を奪われがちだが、某国のスパイ科学者がパーマンセットの秘密を探るお話でもあった。この科学者は、パーマンも知らないようなマスクとマントの超能力の仕組みを短時間で見破ってしまう凄腕の老人である。

ブービーとパー子の協力で、この科学者から、みつ夫が奪われたパーマンセットを取り返すことに成功し、科学者は無人島に置いてきぼりにするラストであった。

★パーマン二本立てだった

この話が掲載されたのは「週刊少年サンデー」7号だが、実はこの号にもう一本「パーマン」が掲載されていた。それが『砂漠のジン魔人』である。まさかのパーマン二本立てだったのである。

サンデー読者は、パーマンが2作も掲載されるとは思っていなかったはずで、その意外性をうまく利用したオープニングとなっている。

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最初のページを、新連載まんが「砂漠のジン魔人」という体裁にしているのである。「オバQ、パーマンにつづいて放つ、藤子まんがの最新作!!」と紹介文を加える芸の細かさで、あれっと思って次のページを開くと、実は「パーマン」でした、というような遊び心溢れる仕掛けとなっている。

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藤子両先生の似顔絵入りで「エヘヘ、だましてごめんね」と、なかなか洒落ている。

★どんなお話なのか?

空飛ぶ巨人・ジン魔人が現れたという報道を見て、パーマン3人はドンガラガッチャ共和国のクバサ砂漠へと向かう。パーマン初めての海外進出である。

共和国のある町に着き、早速ジン魔人の聞き込みを開始。当然外国語は判らないはずだが、パー子はペラペラとドンガラガッチャ語で会話をしている。パー子曰く、パーマンマスクの脇の部分が「万能ほんやく機」になっていて、ちょっと回すだけでどこの言葉でも分かるのだという。

『はじめましてパー子です』でのバッジの使い方に続いて、マスクの新機能もスーパーマンからパー子だけが教えてもらっていたのであった。

パーマンをスパイ容疑で捕まえようと警官隊が現れるが、これを撃退。ところがお腹が空いたということで、わざと捕まって牢獄でご飯を食べることにする。そしてさっさと脱獄して、砂漠を交代で見回って魔人を探すことにする。


閑話休題。ジン魔神と関連があるのか不明だが、本作が描かれた前年に特撮映画『大魔神』3部作が公開されている。時代劇+特撮アクションという画期的なシリーズで、いまだにカルト的人気を誇るキャラクターだ。ただ、製作費の問題なのか、これまでリメイクはされていないようだ。(深夜ドラマで「大魔人カノン」というのはあったが)

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熱くて広い砂漠を飛んでいると、巨大なジン魔人が遠くから飛んでくる。戦いを挑むパーマンだったが、捕まってしまいマントを取られてしまう。絶体絶命のその時、魔人が大笑いしたかと思うと、急に落下して砂漠で伸びてしまう。

落ちた魔人の所に軍隊が集まってくるが、その中にパーマンセットの秘密を探っていた科学者が前作に続いて登場。前作で入手した情報をもとに、魔人の飛行能力とパワーを開発したのであった。まだ未完成段階であり、魔人が笑ったりするとコントロールが乱れるのだという。

ここまで読み進めて、サンデー読者は本作が一本目からの続きであることに気が付く。この気付きの喜びは、てんとう虫コミックを読んでいるだけでは味わえないのは非常に残念なところだ。

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パーマンは、マントは奪われ、バッジも砂が詰まってトランシーバー機能が使えなくなってしまう。何とか砂漠を歩いて戻ろうとするのだが、あまりの暑さに倒れそうになる。すると目の前にオアシスを発見、喜んで走り出すが、オアシスに立ち寄ることを予測していたジン魔人が襲ってくる。

そこにブービーとパー子が助けに現れる。3人でジン魔人に立ち向かうが、ブヨブヨする魔人の体に跳ね返されてしまう。すると、その拍子にマントのないパーマンを落としてしまい、パー子はパーマンを空中で掴もうとする。

うまく足を掴めずに誤ってズボンだけ脱がしてしまうのだが、それを見て魔人は大笑い。すると魔人はバランスを崩して地面へ落下。落ちた魔人を調べると、大きな着ぐるみであることが判り、中にはパーマンマスクとマントを着た男が失神していた。

さらに、落ちた魔人に老人学者が下敷きとなっており、頭を打ってパーになっていた。科学者がバカになり、未完成のマスクとマントも奪取し、これでパーマンの秘密は守られた、ということで事件解決、というお話。


★ここまでをまとめると・・

本作は『はじめましてパー子です』の後日談といったお話で、パーマンセットの秘密を知った科学者が再登場し、見事に悪用されるのだが、それを切り抜ける、という展開である。本作ではマスクの万能ほんやく機能も明らかになり、この2作でパーマンセットの設定がほぼ出し尽くされている。

本作は貴重な作品であるものの、単行本には収録されなかった。それは何故だろうか。

残念ながら、本作を冷静に読み返すと、出来栄えはそれほど良くはないのだ。

初めての外国ロケーションながら、スケール感に乏しく、敵の強さも中途半端。笑うと力が乱れる設定なのに、よく笑う男が魔人の中身になっている点なども、作りの甘さを感じてしまう。

また、サンデー読者が楽しんだ意表をつく二本目、という仕掛けは、単行本では再現しづらいとも言える。そういうことから、F先生は本作の単行本収録を断念したのだろう。

単行本未収録には、やはりそれなりの理由があるのである。

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