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藤子F名作探訪・『なくな!ゆうれい』/エスパー魔美に繋がるもう一つの短編

『なくな!ゆうれい』
「小学五年生」1975年7月号
藤子・F・不二雄大全集「少年SF短編3巻」収録

以前、『アン子、大いに怒る』という短編を、名作「エスパー魔美」のパイロット版だとして考察した。

今回は、「エスパー魔美」に繋がるもう一つの短編があるので、こちらを紹介していきたい。

それが、「小学5年生」(75年7月)に掲載された『なくな!ゆうれい』である。掲載誌からわかるように、児童向けの短編なので、SF短編集に区分されるがSF色は薄い。

お話を簡単に言ってしまうと、カエルの石像に憑いている幽霊と、少年洋一の交流を描いたストーリー。ほのぼのしている趣きだが、実際はそうでもない。

この幽霊は、悪い奴に騙されて財産を失い、ショックで庭を駆け回ったら、石のカエルで頭を打って死んでしまったという。その恨みを晴らすべく200年の年月を経たが、頭を打ったことで敵のことを忘れてしまったのだと。

敵となる子孫を見つけて恨みを晴らさないと、一生浮かばれない。たった一つ覚えていることは、敵の庭には口を開けたカエルの石象があったのだという。

洋一は、オバケ嫌いの性格だったが、現われた幽霊があまりにメソメソしているので、怖くなくなってしまう。幽霊に対して、

「よく見ると怖いというよりおかしな顔だね、君は」

と笑って、幽霊のプライドを傷つけたりする。

洋一のガールフレンドゆう子は、幽霊を見ることができないが、部屋に幽霊がいると聞いて「まあ素敵」と大喜びする。そして、

「そんな話大好きよ。雪男とか、空飛ぶ円盤、ネッシー、超能力」

と語っている。完全に藤子F先生の趣味を反映したキャラクターである。彼女は、幽霊の境遇を聞いて、同情して泣き出し、それを見て幽霊も「こんないい人見たことない」と貰い泣く。


この幽霊の話と並行して、洋一とゆう子らクラスメイトが、学校の不良・ゴン助3兄弟(ゴッド・ファーザー)と対決していく話も描かれていく。税金だと因縁を付けてお菓子やお金を巻き上げたり、コロシヤという名前の野良犬を手なずけて、言うことを聞かない奴らを襲わせるという陰湿なことも辞さない連中である。

洋一は最初脅しに乗らなかったが、それに対して

「無理にとは言わない。ただ、税金を断った人は、不思議に不幸な出来事に遭うんだ」

と、子供らしからぬ脅しをかけてくる。

3兄弟の父親である市会議員は完全に親ばかで、息子たちが悪さをしているなどとは露にも思っていない。兄弟たちの不良行為に気がついた先生をも言いくるめてしまう。


そんなある日、洋一はゆう子に家に庭で、何と口を開けたカエルの石像を見つけてしまう。幽霊の敵の子孫はゆう子さん・・。洋一は、この話は幽霊に内緒にしておこうと考えたが、あっさり見抜かれてしまい、ゆうれいの念波によってゆう子の家まで案内させられてしまう。

幽霊は、「うらめしや」と勢い良くゆう子の家に侵入するのだが、やがて力なく戻ってくる。

「こんなことってあるか…。おら、ゆう子さん大好きだ。とても恨みなんか…」
「おらのうらみはどこへ行くだ!!」
「恨みを晴らせなければ、おらは永久に一人ぼっちで暗闇をさ迷い続けねばならねえだ」
「おらはどうすりゃいいだ!」

と号泣する。それを見て、洋一は「人のいい幽霊なんだな」と同情するのだった。


その夜、洋一はクラスメイトに呼び出されて町のはずれに連れていかれると、そこにはゴン助3兄弟が待ち伏せていた。そして兄弟が口笛を吹くと、狂犬コロシヤが現れて、洋一を襲いかかる。

家にいた幽霊は、洋一の身に何かが起きていることを察知する。自分が憑いているカエルを持ちながら、ヒイヒイ言いながらも洋一の元へと向かう。

洋一はコロシヤに襲われ、ボロボロにされていた。その様子をニタニタと笑って見ている三兄弟。そこに石のカエルが飛んでくる。幽霊の姿は見えないので、カエルだけが見えているのである。

そのカエルを見て、三兄弟は言う。

「うちの庭に昔からあったカエルだ」
「うちのは口を開けてるんだ。お父様がゆう子のオヤジに譲ってやっちまったんだ」

幽霊の敵の子孫は、ゆう子ではなく、ゴン助三兄弟であったのだ。

「そうだったか!!」と幽霊は、念波を洋一を襲うコロシヤに送り、代わりに三兄弟に襲わせる。

「ボロボロのメタメタにしてやるだ!!」

無事、恨みを晴らす幽霊なのであった。


翌日。晴れ晴れとした表情の幽霊は、恨みを晴らして浮かばれることになった。そこに、ゴン助兄弟の父親が汚職で警察に捕まり、三兄弟も遠い所へ引っ越してしまったという話を聞く。

幽霊はまた泣き出す。

洋一「うれし泣き?」
幽霊「あの子たちが可哀そうで・・・。どうかあの三人、立派な大人に育って欲しいだ」

人のいい幽霊は、洋一とゆう子に見送られて、天へと昇っていくのだった。


このゴン助三兄弟、作中では他にゴッド・ファーザーという異名でも呼ばれている。「ゴッドファーザー」と言えば、フランシス・フォード・コッポラ監督の出世作にして、アカデミー作品賞も受賞した大ヒット作で、マフィア映画の金字塔とされる映画である。本作の描かれる3年前の1972年に公開されており、おそらくこの引用だと思われる。

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本作が描かれた一年半後、「エスパー魔美」が発表されるが、その第一話で、本作に登場したゴッド・ファーザー三兄弟と容姿が似ているの不良三人組が出てくる。「辻殴り」と称して、クラスメイトを襲ってボコボコにするのだが、ラストの夜の対決シーンの舞台となる町はずれの丘の描写もかなり似通っている。

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他にも、「エスパー魔美」では、胸騒ぎを覚えて、魔美が高畑を助けに行くシーンがある。ここも幽霊が嫌な予感がすると言って洋一の元に向かう構成と同じだ。

本作のイメージが、エスパー魔美の初回に繋がっていたことは、ほぼ間違いないだろう。この気付き、F研究家の中でも僕が初めてだと思っているが、さてどうだろうか?

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