単行本未収録・未アニメ化の大問題作!「ターザンパンツ」/考察ドラえもん⑭
『ターザンパンツで大活躍!?』
「てれびくん」1977年8月号別冊付録/藤子・F・不二雄大全集18巻
『ターザンパンツ』
「小学二年生」1981年12月号/藤子・F・不二雄大全集13巻
「ドラえもん」には、てんとう虫コミックに収録されておらず、アニメ化もされていない幻の作品というものが多数存在する。
それらを分類すると、以下のようになる。
① 連載初期の設定の揺らぎが残されたもの
②「幼稚園」「よいこ」などに掲載されたページ数の少ない幼児向け作品
そして、
③ 訳アリの作品
この中の、特に「訳アリ作品」は、藤子・F・不二雄大全集が刊行される前では、初出の掲載誌で読むしかなく、当該誌は古本屋などで高額取引がされたりしていた。
今回はその訳アリ作品群の中でも、特にヤバいとされている問題作『ターザンパンツで大活躍!?』の全貌に迫りたい。
本作は「てれびくん」という雑誌の別冊付録に掲載された。この別冊付録に掲載された「ドラえもん」は、掲載誌の読者の年齢層も高めであることから、ページ数も多く力の入った作品が多いのが特徴的。この媒体では7作描かれているが、本作の他にも「分かいドライバー」というこれまたヤバい「訳アリ」作品があるので、これもいずれ紹介する。
物語の発端は、いつものスネ夫の自慢から。「宮崎サファリパーク」に行ってアフリカを体感してきたというものである。この宮崎サファリパークは、1975年11月にオープンした日本初のサファリパーク。本作掲載の一年半前の開業で、ともかく話題であったらしく、1976年には100万人の動員を誇ったという。本作のように「ドラえもん」で実際の場所が出てくるのは珍しい。
自慢されたのび太は、「どこでもドア」で庭とアフリカ大陸を繋ぐことで、「本物のアフリカ園」を作ることを画策する。
ところが、いざアフリカに行くと、土地は広大で、動物の姿は全く見当たらない。
「変だな、みんなサファリパークに行ったのかしら」
と、のび太。
そこでドラえもんは「桃太郎印きびだんご」を出して、あちこちにばら撒いて野生の動物たちを集めようと試みる。
そこに、しずちゃん・スネ夫・ジャイアンが、「アフリカ園はいつ開くのだ」とやってくる。のび太は一人20円の入園料を要求、ブツブツ言われながらどこでもドアをくぐると、集まっていたのは、老いたゾウ一匹のみ。桃太郎印きびだんごは、一匹で全部食べてしまったという。
「迫力がない」「20円は高い」と文句を言われ、のび太はもっときびだんごを出すようにドラえもんに頼むが、もう無いという。その代わりに出したひみつ道具が、「ターザンパンツ」である。この道具の効用は、
力が強くなる。速く走ったり、泳いだりできる。動物と話せる。
というもの。さっそくパンツを履いたのび太は、細身なのであまり様になっていないが、当人はターザンになったと満足げ。「ア~ア~ア~」と雄たけびを上げて、動物を集めに走り出す。
のび太とドラえもんが行ってしまい、ゾウも寝てしまって、暇になってしまうジャイアンたち3人。「本当のアフリカって広いばっかりでつまらない」というしずちゃんに対して、スネ夫は「そうとは限らない。ジャングルを探検すれば面白いと思うよ」と答えて、3人は「行こう行こう!!」となる。
3人が入り込んだジャングルは、思った以上に奥深い。スネ夫は「今まで人間が来たことのない魔境だよ」と言っているが、これがその後描かれる「のび太の大魔境」に繋がるアイディアだったことは間違いない。
不安げなしずちゃんに、スネ夫は脅す。
「何が出てくるかわからないぞ。怪獣とか、人食いとか」
「いや~ん、こわい!!」
「アハハ、女の子は弱虫だな」
と、いつもよりビビリが強いしずちゃんであった。また、セリフに「人食い」と出てくるが、この頃までの藤子F先生の作品には、アフリカの人食いが登場するお話は多数見受けられる。
その頃、ターザンに扮したのび太だが、思うように動物を集められない。動物の言葉にも慣れないので、間違えてシマウマに蹴られたり、猿の群れにバカにされたりする。
そこに、鳥が飛んできて、「三人の子どもがさらわれた」と教えてくれる。鳥の言葉が分かったと喜ぶのび太だが、3人とはしずちゃんたちのこと。
「ターザンが助けにいかなくちゃ」
「映画みたいだ」
と、二人は先ほど家来にしたゾウに乗って、ジャングルに向かう。
が、ゾウはお腹いっぱいで動きが鈍い。仕方がないので、ここからは「ターザンロープ」で進むことに。
このロープは、投げると次の木に勝手に引っかかってくれるので、ターザンのように木から木へと飛んでいくことができる優れもの。最初は怖がって、飛んだはいいものの、次の木に飛び移れず、また戻ってきてしまい、ドラえもんを蹴飛ばしてしまう。すぐに慣れるが、ドラえもんはどっかへ行ってしまい、一人ジャングルの奥地へと向かうのび太。
その頃、しずちゃんたち3人は、人食いたちに捕まっていた。人食いたちは、嬉しそうに刀を研ぎ、大きな鍋に熱湯を沸かしている。「ああん。俺たちどうなるんだろ」と泣く三人。
その様子を遠く、木の上から見つけるのび太。「何百人もいるぞ、これじゃとてもかなわない」とビビる。動物の家来もなく、その場から逃げようとするのだが、そこに「キャアー」と悲鳴が聞こえてくる。
しずちゃんが、人食いに連れていかれようとしている。その姿を見たジャイアンとスネ夫は、
「しずちゃんから食べられるのか。俺、一番で無くて良かった」
と、人でなしなことを言う。
あっと言う間に身ぐるみ剥がされ、石の上に座らされて、先ほど研いでいた刀で切られそうになるしずちゃん。
その姿を見て、のび太は奮起。「行くぞ」と、ターザンロープを掴み、「あ~あ~あ~あ~」と勇ましくターザンの雄たけびを上げて飛んでいく。
ところが、途中、枝にパンツが引っかかり、脱げてしまうのび太。「うわ~あ~あ」と全裸で落ちていき、ちょうど熱湯の中にザバンと入ってしまう。
「何やってんだ、あのバカ」とスネ夫とジャイアンはあきれ顔。
この騒ぎの中、裸で逃げ出したしずちゃんに、のび太から脱げたターザンパンツがヒラヒラと落ちてくる。
「うれしい、パンツだわ」
パンツに嬉しがるしずちゃん。。そして、ターザンパンツを履いたしずちゃんに、何人もの人食いたちが迫ってくる。「きゃ~あ~あ」と逃げ出すしずちゃん。そこにナレーション。
しずちゃんは、知らずに「動物たちみんな来い。タターザンと一緒に戦え」と叫んだのだ。
しずちゃんの叫び声に呼び寄せられ、ドラえもん、老いたゾウ、そのほかの動物たちが大集合して、人食いたちを蹴散らしていく。ターザンしずちゃんも、パンツ効果で人食いたちを一網打尽。「どうしてあたしこんなに強いのかしら」と驚くしずちゃん。
人食いたちはみんな、逃げて行ってしまう。のび太も熱湯から救い出される。すると、ターザンパンツ姿のしずちゃんを見たのび太は
「あっ、僕のパンツ返せっ」
と、あくまでパンツにこだわるのび太。まずはしずちゃんを労えよと、思わずにはいられない。
「いやあよ」と半裸のしずちゃんは断り、「いや~あ~あ」とターザンロープでジャングルの奥へ飛んで行ってしまう。それを追う全裸ののび太。そして残されたジャイアン、スネ夫、ドラえもんは、
「女ターザンだ、かっこいい」
とぼんやり見送るのだった。
・・・ここまでストーリーを追ってきたが、なかなかの珍作であることは伝わったかと思う。最初から最後までターザンパンツで全く活躍できないのび太。パンツを巡るしずちゃんとのび太の応酬。どこまでも他人事のスネ夫とジャイアン。時代性を感じる人食いの設定。極めつけは、しずちゃんが女ターザンと化してどこかへ行ってしまう投げやりなラストシーン。
ひみつ道具としてのアイディアは悪くないが、どうしてこうなってしまったのかというストーリー展開や、全裸で人食いに殺されそうになるしずちゃん、というインパクトの強い表現など、突っ込みどころが非常に多い作品となっている。
F先生も、本作のヤバさを感じ、それが修正できずに単行本収録を断念したものと思われる。しかしながら、このターザンパンツとターザンロープのアイディアは、陽の目を見せてやりたいと考えたのだろう。本作を描いた4年後、もう一つの「ターザンパンツ」を書くことになる。
それが、「小学二年生」に掲載された「ターザンパンツ」である。この作品は、無事単行本にも収録されている。
こちらの舞台はアフリカではなく、いつもの町。よく犬に噛まれるのび太に、ドラえもんが「ターザンパンツ」と「ターザンロープ」を貸して、動物たちと仲良くさせようとするお話である。
雄叫び=動物語がうまく伝わらないという設定は前作の流れがそのまま。「アーアーア」と叫ぶのだが、その度にカラス・ネコ・ゴキブリ・ネズミを集めてしまう。たまたま「アーアーア」と欠伸をすると、犬が集まってきて仲良くなる。
その後、どこかの家のペットのライオンが逃げ出すという事件が発生。ターザンのび太は、撃たれそうになるライオンを助けて、どこでもドアでアフリカへと送り届ける。
事件解決後、もう一度ターザンとしての雄姿をしずちゃん・ジャイアン・スネ夫に見せるべく、ターザンロープで屋根の上を飛ぶのだが、パンツが木の枝に引っかかり脱げてしまう。
結果、屋根の上で全裸となってしまったのび太を笑うジャイアンとスネオ、真っ赤になって去っていくしずちゃん、というシーンで終わる。
雄叫びがうまくいかない、アフリカにどこでもドアで行く、裸オチ、などいくつかの共通点があるが、前作のようなカルトな空気は一切ない。ターザンパンツというアイディアが、無事に陽の目を見ることができて良かったな、と思う次第である。
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