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田舎のポルシェ 篠田節子 読書感想


短編3部作

・田舎のポルシェ

台風が近づいてるのに軽トラで岐阜から東京郊外の誰もいなくなった
実家まで150キロの米を取りに行く話が、色々な事情が絡み合って320キロに
増えた米を積んで岐阜まで帰るのだが、事故渋滞や台風の影響やらで
物理的にも精神的にも、えらく遠回りになる物語。
とても読みやすく、前半に出てくるおにぎりと後半に出てくるおにぎり、
モノとしては一緒だがシチュエーションや精神的・肉体的な状況が違うと
全く別物になる上、米を取りに行くというストーリーとリンクしてるように感じる話だった。
家族という単位の中で孤独だった者、孤独になってしまった者との温度差や体験格差から出る言葉の違いが面白かった。出身地域の差というか、男女の差というか、そういった部分の考え方・捉え方の違いが割とはっきり描かれてる気がする。


・ボルボ

オジサン同士のボルボによる北海道旅行が描かれてるが、ちょっと違う。
年下の妻に対する疑いを確固たるモノにする為に勘繰った夫が、
この旅を最後に長年連れ添った愛車・ボルボを手放す覚悟をした男の旅に相乗りする話。
まぁ、北海道の山奥に行けば熊はいるよねって話。


・ロケバスアリア

70歳を迎える介護士の女性が、とあるきっかけを機に今まで好きだった
歌を録音・録画する為にコロナ禍でレンタルが安くなったコンサートホールで歌う話。
孫が運転する車に同い年の映像ディレクターを乗せ、紆余曲折ありながらも
見事歌い切るのだが…という話。
アリア、オペラの海外古典楽曲に関しては宗教という精神的ベースがあるので
日本人に、その精神性を説くのは難しいという説明は非常に理解し易かった。
また、この映像ディレクターの境遇にも色々と想像出来る含みのある台詞や描写があるので、自分の不幸は他人の不幸では無いという考えがないと
ただの嫌味なオッサンにしか受け取られないのは可哀想だなと思う。
不幸の形はそれぞれ、ってヤツですな。

なかなか好きな内容の作品だった。