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【シェア街住民インタビュー】環境問題×芸術×楽しい=折り紙 勝川東さん(前編)

今回は、「難しいから面白い!東大折紙」の出版で中心的な役割を担った関係住民の勝川東(かっつん)さんにお話をうかがいました。前・後編の2本立てとなります。過去の折り紙遍歴、折り紙を通じてやりたいこと、などについて論理的に説明するかっつんさん。聞き手は、「文章でご飯を食べたい」と考える住民ライターの空峯千代さんが務めました。

環境問題と折り紙をつなげたい

現在の活動内容やお仕事について、簡単に教えてください。

勝川東(以下、かっつん)さん:大学卒業後に就職しましたが、折り紙は仕事にせず、趣味としてやっている位置づけとなります。
幼稚園から高校に入るくらいまでは、魚などの生き物の折り方を自分で考えていたのですが、大学時代はもっと複雑な折り方の作品に関心が向き、最近は折り紙を通じた抽象表現を追求しています。

大学時代、所属していた折り紙サークルに出版依頼があり、「東大折紙」を有志で書いたのですが、そのコーディネートをしていました。
そうした活動をしているうちに折り紙を外部向けに発信する活動に関心がわき、コロナ禍の中、地元の千葉県柏市で折り紙の価値を普及できないか、と3週間くらい、朝活という形で折り紙の講習会をやりました。

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他にも、折り紙に関するクラウドファンディングをしてみたり、柏市の隣の松戸市で個展をやってみたり。折り紙の「折塾」として発信することは、社会人になってからも続けていければと思います。

就職先は「自然電力」というベンチャー企業で、太陽光や風力発電などの再生可能エネルギーを扱っています。
発電所のメンテナンスや、市場から調達した電力を売る活動もしていて、電気の売り方、作り方含め縦横の座標が幅広い会社です。

折り紙が仕事に、仕事が折り紙に、という形でお互いが絡み合うことはありますか?

その点については3つの方向からお話ししますね。
まずは、折り紙が好きになったきっかけに関係します。
僕はもともと、虫が好きで、幼稚園の年中か年長の頃、親にカブトムシの難しい折り方が載った本を買ってもらい、そこでのめり込みました。
そういった虫を好きな気持ちから「生き物を殺すのってどういうことなんだろう」ということに考えが至り、環境問題への関心も芽生えました。
それが今の就職先につながっています。

次に、「折り紙での考え方はあらゆることで応用が効く」と確信しているんです。
より詳しく言うと、折り紙は資源配分の考え方なんです。正方形のどの部分をどのように使うか、どこを手のパーツにして、足のパーツにして、尻尾にして……ということを考える。それは、提示されている条件から汲んでやりたいことを実現させる、目標としているものの課題点を的確にとらえて作業する、ということにつながります。それってすなわち、プロジェクト構築のやり方とそっくりなんですよ。
今使える人数、お金、そして何から課題をクリアすべきか。これは、折り紙と同じプロセスでできるんじゃないかなと。まだ会社の仕事では試せていませんが、あらゆることに通じると思っています。

3つ目はまさにピンポイントですが、「環境問題と折り紙をつなげたい」と考えていることです。
そう考えていろいろと調べていた際、竹を素材とした折り紙を見つけました。作品のモチーフは里山の生きもので、要は竹林の環境問題を人に知ってもらうために作られた折り紙なんです。
この商品のデザインとコンセプトに感動してしまい、そこから開発者の方と仲良くなって、自分の手掛けた本から抜粋した作品を商品にして販売していただきました。
環境問題というテーマでつなげることで、出来ることなら自分の会社の事業に組み込められれば、と考えています。

他人の作品を勉強するよりも、自分の創作がしたかった

これまでの折り紙遍歴について教えてください。

中学くらいまでは難しい作品を作っていて、半分は好きでやりつつ、半分は「俺はこれが得意」という誇りを持った気持ちでやっていました。

そんな中、僕は天邪鬼なので、他人の作品を勉強することよりも、自分の創作がしたくなっていきました。なので、当時は実力不足だったのかもしれませんが、自分オリジナルの魚の折り紙を作るなどしていました。
ただ、大学1年くらいまで作っていたそうした作品は、今は人に見せたくはないですね。自分の実力がついていったのは、大学2年からです。

同世代の折り紙好きな人たちはどういうことを追求していたんですか?

年齢に関係ない部分もありますが、みんな、難しい本を買い、ネットで調べる、という作業をしていました。
僕はそうした難しい本は、他の人たちの3分の1くらいしか持っていなかったのでは、と思います。
なので、折り紙に関する必要なスキルは、後づけで身につけていった感じですね。

"ただ好きだから"続けられる

Twitterでかっつんさんの作品を拝見しました。かっつんさんの折り紙は完全にアートを空間として作っていて、折り紙をただ折るのではなく、芸術としてとらえているように感じました。

僕は折り紙業界の中では、どんなによく見ても、実力は上の下、もしくは中の上くらい。僕より上手い人はたくさんいます。
でも、折り紙で芸術作品を作ろうと頑張っている人は、実はそんなには多くないんです。

僕より上手な方で、展示に励んでいたり、無意識に芸術の域に達していたりする方もいます。そんな中でも、僕は僕なりに模索しています。
折り紙の芸術作品は、まだカルチャーとしては薄い部分があります。それでも何かを自分の手で作って美を営むのならば、芸術が何たるかを追求したいという想いがあります。
「どうせ勉強するなら、いい大学に行こうぜ」というのと同じ気持ちで、芸術について分かっていないといけないな、と考えています。そう思い始めたのはずっと前なのですが、体現し始めたのは最近になります。

もう1つは折り紙に関係なく、人間として芸術がわかっていないとな、と自分に対して思っているところがあります。

そう思う理由の半分は、おそらくは就活の反動から来ていると思います。これまでは論理的思考力が評価されていた時代でしたが、今はそれが限界に来ていると思っています。
僕は思考力に自信があったのですが、それが何かしっくりこないことがあって、それは何なんだろうと。意見をちゃんと言っているはずなのに、周りと通じ合えないときがある。それは、僕の未熟さも理由にある一方で、「論理的思考能力では補えない世界が存在している」という考えに行き着いたんです。
無意識のうちに、自分のセンスにはこだわりがあったと思うのですが、「論理に収まらない良さを見抜けるかどうかが大事なんだ」という思いに駆られたんですね。それが大学3年生の途中のこと。そこで「折り紙を通して芸術性を追求しよう」と思い、今に至っているところです。

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なるほど、感性の問題ですね。かっつんさんは話していて理知的な方だと感じましたが、クリエイティブな方でもありますね。私は文章を書くことが好きで、「文章でご飯を食べたい」と決めていますが、かっつんさんのなかで「折り紙」と決めている理由はありますか?

実は、そこには理由がないのかもしれない、と感じています。
折り紙が好きになったのも、数ある選択肢の中から選んだわけではなくて、気がついたら大好きになっていて、「それを活かさない手はない」と思ったんですね。
だから、「なぜ折り紙なのか」は答えようがないんですよ。その点、千代さんはなぜ文章なのですか?

なぜなんだろう。インタビューをどちらが受けているのか、分からなくなってしまいましたが(笑)。
思いあたる事例としては、コロナ禍のときに広島に住んでいる高校生の子が、オンライン登校できないことを怖がっていたんです。彼のために力になれないか、と考えたときに広島県の学生が運営する支援サイトを知って、リンクを貼ったブログを書いたんですね。それが活用されたのか、結果的に登校が一旦停止になりました。それで「自分の文章で誰かが動くことがあるのかもしれないな」と文章の力を信じられたんです。そのときに「文章でご飯を食べたい」と思いました。ただ、一番大きいのは好きという気持ちだと思います。

なるほど。今の話になぞらえて、相違点を話します。
違うところから話すと、僕はたまたま好きだった。そこに前提として、「仕事になった時に楽しくなくなる」という感覚がありました。なので、「楽しいから」が常に保てる状態でしか、折り紙の活動はやっていないんですよね。
一方で千代さんの場合だと、自我が確立されている状態だから、そこに自分でやっていきたい、やっていくべきだ、という理性による意味づけが先にあることで仕事にしたいと思えるんでしょうね。僕の折り紙と全然違うルートで、「なんで」という理由があるかないかで、仕事にしたいかどうかがあるのかもしれません。
逆に同じなのは、なんで続けられるかというところ。まさしく、「ただ好きだから」ですね。似ているところとして折り紙の力を実感しているところはあります。たまたま好きだし、得意で、辞める理由がなかった。かつ、折り紙の楽しさや周りに与える影響を実感していて、良いサイクルが続いている。だから、僕はずっと続けています。

好きだからこそ、あえてビジネスにしないんですね。

そうですね。してもいいな、とは思ってはいますが、それで飯を食おうとは思っていないです。

好きなことをお金にするかどうかについては、その人の価値観も反映されますね。

後編に続く。

【クレジット】
編集:Atsushi Nagata Twitter / Note / Youtube
執筆:空峯千代 Note
写真:提供写真



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