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コミュニティをマネジメントするには、何が必要か?

近年、「コミュニティ」と名のついた言葉を多く耳にします。
「コミュニティデザイン」「コミュニティマーケティング」「コミュニティオーガナイジング」...。

いずれも、コミュニティづくりのノウハウが問われている背景がありそうです。今の時代に必要とされてきてはいるものの、一歩間違えれば「曖昧でよくわからない職種」にもなり得る存在。

そんな中で、本格的な「コミュニティマネージャー(以下、コミュマネとも)」を養成する学校として、BUFFを創立させた加藤翼さん。コミュニティを運営するため必要なことについて、お話を聞きました!

コミュニティマネジメントに至った経緯

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1990年千葉県柏市出身。「共創」をテーマにしたコミュニティマネージャーとして、他分野のコミュニティを横断する事業を多数手がける。現在、100BANCH, 渋谷QWSのコミュニティマネージャー を務める。早稲田大学で哲学を専攻後に、外資系コンサル企業に勤務。デザインスクールを経て、コミュニティアプローチでの課題解決を広めるべく、BUFFコミュニティマネージャーの学校を立ち上げる。世界経済フォーラム(通称ダボス会議)の配下にある、Global Shapers Communintyに所属。森ビルの主催するInnovation City Forumなど、多数のイベントでファシリテータも務める。

そもそも、加藤さんはどうしてコミュニティマネジメントに携わるようになったのでしょうか?

もともと、好奇心がモチベーションにありました。高校生までは理系で。宇宙物理とか量子力学に興味があって、自然が好きでした。やがてぐるぐる回るうちに、人間に対象が移り。ヒトがどう認知し、行動をとっているのか? 大学で哲学をやるうちに、ますますその関心が深まっていきました。

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また、生きてるのが恥ずかしいと思うことがあって笑 小さいときとかは、他の人の眼差しにさらされるのが嫌だったり。国語の時間とかは朗読をするのが怖かったですね。今も目線が怖かったりします笑。

学生のころは学生団体をやっていたり、国際協力とか、世界銀行で働くとか。意識が高かったですね。ただ、自分がどんなスキルセットを持っているか意識していなくて。やがて、「ロフトワーク」*1に入ったことで、自分のスキルセットが社会の中でどう位置付けられるのか考えさせられて。「コミュニティマネージャー」という言葉が出てきました。

というのも、その企業の中で、「コミュマネ」をやってほしい、という相談が多く。「100BANCH」*2というプロジェクトに携わって、以後三年間やっていきました。

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これからの時代。お店もただ「モノ」を売る場から、「ヒト」の生活に寄り添う、となったとき。コミュマネの要請が強まるのでは?と思い、学校をつくることにしました。それで今に至ります。

*1 ... 2000年にLoftwork.comというクリエイターコミュニティとしてスタート。企業、社会、クリエイターが共に成長し、新しい価値創造を支援するクリエイティブ・エージェンシー。
*2 ... 「100年先の世界を豊かにするための実験区」として、2017年にJR渋谷駅新南口エリアに設立された。年間約200のイベントを開催している。

「What」: コミュニティマネージャーとは、なにか?

そんな加藤さんの「コミュニティづくり」の学校ですが。そもそもコミュニティマネージャーとは、何をする人なのでしょう?

"コミュマネ"って、いろいろな人が言っている分、幅広いですね。
BUFFで扱っている定義は、以下のようになります。

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ざっくり言うと、ヒト・モノ・カネの流れをメンバー制度を軸として制御し、コミュニティ内での行動をデザインしていく、とも。

どんなことでも、人が集うには必ず意味があるはず。例えば、世界平和を目指す。地域をより良い街にする。ユニコーンを輩出する...。こうした「shared value (=共有された価値観)」を最大化するのがコミュマネであると考えます。

その手段として...。ハードの空間を使ったり、slackを用いたり、アプリのUI/UXを追求したり。特にSNSが出てからは、オンラインから始まることが多いですね。学内でコミュニティをつくるときとか。そこから実際の活動につなげていったり。

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また、プロフェッショナルなところも大事にしています。コミュマネって、ぶっちゃけ誰でも名乗れて。資格もないし、明確になっていない部分が世の中に溢れています。その点、メンバーファースト...会員の側に立って考える姿勢を大事にしています。運営側と会員さんの思惑が重なる、shared valueの部分を起点として、ですね。

「Why」: コミュニティを、なぜ運営するのか?

コミュニティとは、そもそも何かという点にもなりますね。
ひとつ例として、チームとコミュニティの違いが挙げられます。

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チームには、必ずひとりひとりに役割があります。例えば、サッカー。何人でやるかが決まっていて、誰かが抜けてしまうと大いに困る。その分、小規模でアウトプットが出しやすい利点があります。

コミュニティには、参加しなくていい人がいます。多様性を受け入れたり、出入り自由だったり。優しいとも言えますが、その分時間やコストがかかるという点も。
逆に、価値観への共有がされていれば、内発的動機に基づいてより深く関わりたいという人が核になっていきます。

そんな意味でコミュニティは、目的よりも価値が大事。価値自体には必ずしも動的なベクトルが入っていない場合もあり、「状態」だったりして。ただ、「問い」の感性がshared valueにある。世の中をどうしてやろう、みたいなのはないが、その中でスクランブルが起きればいいのでは、と考え運営しています。

「How」 : コミュニティを、どんなスキルで運営するのか?

加藤さんの学校では、カリキュラムがありますね。どうやってコミュニティ運営をしていくか、という点ですが。何を学んでいくのでしょうか?

BUFFでは、主に6つのスキルに分けて教えています(認定プログラムでは、特に1~5のスキルを中心に講義を行なっています)。

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まずは、Space Management (空間)。施設の管理から空間デザインまで。私は建築(空間デザイン)を学んだのですが、割とSaaS系のコミュニティの方達はリアル空間を扱ったことがなかったりして。実は教えてくれるところが少なかったり。ハード面のノウハウとして必要とされます。次に、Member Management (メンバー)。会員制度だったり、参加者のアイデンティティを深めたりなど。ここがコミュニティのコアになってきますね。

その上で、Event Management (イベント)も関わってきます。企画から実行まで。コミュニティのリズムを作っていく役割があります。年に一回の株主総会だったり、学会だったり。また、Media Management (メディア)と両輪の関係にあります。どんなにいい価値を生み出していても、外に伝えていく媒体がない限り、内輪で終えてしまう。なので、必ず自分たちで記録から広報・PRをしていく必要があります。

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かつ、Project Management (プロジェクト)という実践面のノウハウも。ある程度事業を回したことのある人ならともかく、お金周りの経験も必要になります。それがないと、空想上のコミュニティはできるけれど、存続させることがすごく大変になり。毎月お金がこれくらい出ていく、という肌感覚を持てていることが大事になります。最後に、Self Resource Management (自己管理)も必要となります。仕事と遊びの境界があいまいになる分、コミュマネは働きすぎることがよくあって。どうバランスをとっていくかが鍵となります。

これらを踏まえて、6回分の講義が行われます。ただ、それだけだと覚えるのが大変なため、必ず一年間の実践経験を必須とさせています。コミュマネは、地味な作業もたくさんあって。最後まで残ってゴミを捨てるとか、エクセルシートを細かく管理していくとか、関わる人に謝まりに行ったりとか。現場の経験をしてからじゃないと見えてこないものがある、という面も踏まえての設定です。

コミュニティマネジメントを学ぶ意義とは?

そんな学びのプログラムの特徴として、加藤さんは学術的な面を大事にしているように見受けられます。(実践ベースの人が多い中で、少し珍しい?)

学校立ち上げの段階では、講義の前日は徹夜で準備していました笑 自分が機能すると考えていることの根拠は何かとか、先行研究を遡ったり。日本だと文献が少なすぎて、BUFFでは海外のものを扱うことも多いですね。

アカデミックでは、経営学、経済学、心理学、自然科学、社会学、建築学など。単純な仕組みから複雑な仕組みがどうできていくか。ひとつの場所を運営し、デザインする過程で、すべて関連してくるなと感じるときがあります。今後学問となり、学会ができてもいいんじゃないか、とも思います。

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ただ...実際勉強しなくていいとも思います。自分は苦手なのですが、直感でできる人もいるので。コミュ力がすごい得意な人とか、感覚で素敵な空間をつくれる人もたくさんいて。むしろそんな人たちのほうが、ビックデータで解析とかするよりも安いのでは?とも思ったり。

コミュニティ運営を学ぶということは、指標があることに意味があるのかなと。コワーキングスペースでひとりしかいないとか、コミュマネは孤独になりがちだったりもして。誰かと共有したり、自分の位置を確かめたいと思うときに安心感を得られるのかな、と感じています。

コミュニティマネジメントには正解がないから、おもしろい。

先ほど、コミュニティは「参加しなくてもいい人」がいるという点が挙げられましたが、「何もしない人」への対応はどうしているのでしょうか?

まず、ヒーローズ・ジャーニー*3、成功するゲームの設計をできているかが大事になってくると思います。最初に入ってきた人たちが、どこに階段があるかそもそも分かっているか。コミュニティに貢献している人ほど成功するようなモデルになっているか。

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また、コアメンバー5-10%の意見はしっかり聞くこと。判断軸は、関与度が大きいかどうかですね。単にコワーキングスペースに来ているか、ではなく。毎日来ていても、一切コミュニケーションを取らずに作業して帰る、という人もいるので。また、来ていないくても外で広めてくれている、というアンバサダーのようなケースもありますし。

問題なのは、コミュニティに関与していないのに声だけ大きい人の声を聞いてしまうこと、ですね。コワーキングしているとある、このルールが使いづらいとか、一部の会員さんがルール守らなくて、とか。わっと問題が起きると、即座的に反応しがちで。感情ものっかると。そういうとき、コミュマネは冷静に対応をしていく。本当に問題なのか。本当に聞くべきなのか。一部の人の問題なのかコミュニティ全体の問題なのかと、切り分けていくことですね。

コミュニティの中で重要な声、というのはどういう基準で決められるのでしょうか?企業であれば、たくさん製品を買ってくれるとかファンであるとか、わかりやすい軸がありそうですが。

コミュニティで中のインナーリングを定義すると、コアメンバー、アクティブメンバー、周辺メンバー、アウトサイダーと関与度ごとに分けられます。そこを測るのが難しいかなとも思いますが、毎日見ていれば分かってくることも。スタッフの会話の中でも。誰々さん、真ん中で陣取ってるけどどうかな、とか...。

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コミュニティマネージャーには100点がないですね。やろうと思ったら無限に会員とも相談できるし。けどひとりの会員と相談してると、他の会員さんが…と葛藤もする。ひとりで抱えちゃうと大変なので、痛みをみんなで共有できるといいかな、と。コミュニティの運営は正解がないからこそ、おもしろいですね。

*3 ...アメリカの神話学者、ジョゼフ キャンベル氏が提唱したもの。古今東西の神話に登場する数々のヒーローの物語に、ある共通した一連の流れがある。人生のモデルとして、教育やビジネスにおいても扱われる。

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