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IT初級者に学んで欲しい「質問のスキル」

ITエンジニアとして仕事をしていると、色々な方面からさまざまな質問を受けることがあります。IT知識のないお得意様の質問であれば、懇切丁寧かつわかりやすく回答することに執心しますが、同じプロジェクトに参加することになったIT初級者や、IT業界に入ったばかりの部下からの質問に対し、どこまでフォローアップすればよいのか悩むこともあります。

IT業界のシニアとしては、できればそのIT初級者に健やかに育ってもらって、将来のIT業界を支えていって欲しいという気持ちで溢れていますので、いただいた質問に回答することはやぶさかではりません。しかし、いつまでも初級者な質問に回答してしまっていては、結局その初級者はいつまでたっても初級者から抜け出すことができません。

ここでは質問される側がIT初級者にどのような質問スキルを求めていて、どんな質問巧者になって欲しいのかについて考察してみます。

「質問スキル」とは何か

さて、「質問スキル」という言葉を使うにあたって、まずはこの言葉に含まれる「スキル」を因数分解してみます。
スキルが求められる場面は、大きく次の3つにわかれます。

  • 質問すべき内容かどうかを判断する

  • 誰に対して質問すべきかを判断する

  • どうやって質問すべきかを判断する

それぞれの項目に「判断する」という言葉が入っています。
先に結論から言いますと、質問される側がIT初級者に求める「質問スキル」とは、この「質問を判断することができるスキル」ということです。

ITに限らず、仕事をしていると「判断する」ことを幾度となく求められます。その判断の内容にどれだけの責任が付与されているかどうかが、その人の立場によって変わってきます。
質問というのはその判断の中で最も初歩的でありつつ、重要なスキルです。わからないことを言語化し、問題解決の嚆矢となりうる手法なので、ぜひこのスキルを鍛えて、いっちょまえの質問巧者になってほしいと願っています。

質問すべき内容かどうかを判断する

ここからはそれぞれのスキルについて考察していきます。
IT初級者は何を質問すべきかわからないので、回答者に対し次のような質問をしてしまうことがあります。

  • 「この<span>って何ですか」

  • 「「インライン要素」って書いてあるんですけど、これは何ですか」

  • 「変数に代入ってあるんですが、代入ってなんですか」

この質問をしている場所が学校という場所で、回答者が教師であった場合にはそれぞれ明確な回答をしてもらえると思います。また、回答者に余裕があって、かつ気分がいい時には軽快に教えてくれるかもしれません。
ただ、忙しい会社の先輩に上記のような質問をすれば一言「ググレカス(Google検索で検索してから質問しなさいの意)」と冷たく突き放されてしまうこともありうる内容です。

まず質問者がすべきことは、「その質問を自分で解決することができないか」と考えることです。その質問内容に対して、自分なりの人事を尽くした上で質問するのであれば、回答者はたとえ忙しい状況であったとしてもなんとか時間を作って回答してくれるかもしれません。

よく使われる質問テクニックとして、「5分考えてみて答えがでなければ質問して」というものがあります。5分以上考えても答えがでないのであれば、それ以上頭をひねっても時間の無駄ということなんですが、「せめて5分は自分で解決できないか考えてほしい」という先輩たちの願望もこの言葉の中には含まれていると思います。

と、ここまでは本当に初歩的な内容ですが、このスキルにはさらに上の要素も含まれています。たとえば次のような内容です。

  • 「このタイミングで決裁者に対してフォローの連絡をしようと思うんですがどう思いますか?」

  • 「ここはfloatではなく、display:flexを使おうと思うのですがいいですか?」

  • 「このプロダクトではreduxを採用しようと思いますが、他にいいライブラリをしりませんか?」

このレベルの質問は、Googleで検索をしたからといって明確な回答がすぐに見つからないものです。賛否両論があったり、特殊な状況だったりという要素があるので、質問者はその点をふまえて質問をしていることになります。

上記のような質問をされた場合、ほとんどの回答者は率直に意見を言ってくれると思います。ただ、そうはいっても回答者につねに余裕があるとは限りません。ひどく忙しいときには「自分で考えてくれ」と言われ、かといってこの質問をせずに放置しておいたら後でこのことが原因で案件が炎上し、その回答者から「なんであの時質問してくれなかったんだ」と文句を言われます。

そうなると質問者側は「どうすればいいんだ!」と持っている皿を壁に投げつけてしまいがちになるんですが、そこで試されるのが「質問すべき内容かどうかを判断する」スキルです。

  • その質問内容の回答が明確にならない場合、どんな影響があるのか。

  • その影響は自分の責任の範囲内に収まるのか。

  • その影響が自分の責任範囲から漏れた場合に、収拾する方策はあるのか。

上記のような判断基準をもって、質問者は回答者にその質問をすべきかどうかという判断をくだすことになります。が、これらの判断基準は一朝一夕で身につくものではありません。

なので回答者は「わからないことがあったらとりあえず聞いて」と最初に言うのです。その経験を重ねていく上で、上記のような判断ができるようになっていくことをその言葉の裏に期待しています。

誰に対して質問すべきかを判断する

次は「誰」に質問をすべきかというスキルです。
このスキルはわりと習得しやすい内容ではありますが、一歩間違えると大事になるので注意が必要です。

まず、会社内で質問する場合はそれほど判断に迷いません。
ちょっとした技術的なことや仕事のやり方についてなら、(いれば)メンターとしてついてくれた先輩や、近くの席にいる同僚で事足ります。
また、決済が必要とされていることに関してなら上長に質問すればいいし、労働環境に関することなら総務にでもきけばいいと思います。

多くの企業では入ったばかりの社員やアルバイトに対して、これらの質問・相談先を案内してくれるので、その案内にしたがって質問をすればいいと思います。

ただ、そのある程度きめられた質問先のなかでも判断を要する場合があります。メンターとしてついてくれた先輩に「プライベートな質問(恋愛とか)」をしたり、近くにいる同僚に「いまの上長をどう思うか」みたいな質問をする場合には、その質問先が適切かどうかを判断する必要があります。

  • 回答者は質問に対しての回答を持ちうるか。

  • 回答者の立場として、質問することが適切か。

  • 回答者は信頼できる人物か。

これらの判断基準は仕事、プライベートに関係なく必要になってくるものですが、仕事の場ではよりTPOを意識する必要がでてきます。

また、「誰」に対しての判断がいっそう難しくなるのは、企業という殻から一歩でも外に出てしまったときです。それは得意先やパートナーに対してであったり、自身が副業やフリーランスの立場になった場合になります。

このとき、上記の判断基準に対してさらに項目が追加されます。

  • その質問内容に、回答者が閲覧できない秘密情報が含まれていないか。

  • その質問内容は、回答者との契約内容に含まれているか。

ITの仕事を始めたばかりだと、NDA(秘密保持契約)を結んでいない相手に対して顧客の名前を明かして質問をしてしまったりしますが、こういったことは後で問題になりますので、その質問をできる相手かどうかを冷静に判断できるようになってください。

どうやって質問すべきかを判断する

この質問スキルは、IT初級者にとって最初のハードルといってもいい内容です。
「IT 質問の仕方」でGoogle検索をすると、1,000万件を越える検索結果がHITします。それだけ「質問の仕方」というものはIT初級者にとって難しいものになります。

では、なぜIT初級者にとって「質問の仕方」が難しいのか。
それは「回答者の立場になって質問をしていないから」です。

よくIT初級者からされる質問の例として、次のようなものがあります。

  • 「〇〇を試してみたんですが、うまくいきません」

  • 「このページが表示されないんですけど、どうしたらいいですか?」

  • 「エラーが出ていてうごきません。助けてください。」

この質問だけを見て、「こういたらいい」と回答できる回答者はまずいません。
質問者は「うまくいかない」という結果だけを書いていますが、回答者がその回答をするためには、「うまくいかない」に至った過程を確認する必要があるからです。

質問者が回答をしてもらうためには、回答者に対して「質問にいたった状況を客観的に共有する」ことが求められます。

では具体的にどうすればいいのかというと、「IT 質問の仕方」の検索結果には「このフォーマットで質問すればOK」といった内容のものが多くあります。
そのフォーマットに含まれる項目は次のようなものです。

  • タイトル

  • 実施日時

  • 実行環境

  • 期待する動作

  • エラーの内容

  • 該当箇所

  • 試したこと

これらの情報を回答者に共有すれば、回答者は客観的な情報から回答を考えることができます。なのでIT初級者は積極的に上記のようなフォーマットを利用して質問することをお勧めします。

が、そんな調子でIT初級者が実際の現場に行くと、これらのフォーマットとはかけはなれた調子で質問が飛び交っていることがあります。

  • 「〇〇のページにXXっていうエラーが出ているんですが、原因わかりますか?」

  • 「今回の修正で〇〇のテストがとおらなくなったんですが、心当たりありますか?」

  • 「xxx.cssの〇〇行目に書いてある記述は不要だと思うので消してしまってもいいですか?」

これらの質問にメンションをつけられた回答者たちは、これだけの情報から質問者に対して回答を送っていたりします。

自分が質問するときには「このフォーマットにそって質問しろ」といわれたのに、なぜそのプロジェクトにいるメンバーは少ない情報だけで質問ができるのか。
それはそのIT初級者とプロジェクトメンバー間での「共通認識」と「役割」に違いがあるからです。

たとえば1つ目の質問にある「〇〇のページにXXっていうエラーが出ている」についてですが、そのメンションをつけられた相手(回答者)がその部分の改修を担当していたとします。そうなると、回答者はこの情報だけで質問の意図が伝わり、思い当たる原因を答えることができます。

また、2つ目の質問である「今回の修正で〇〇のテストがとおらなくなった」についてですが、そのテストが過去にも同様のエラーを起こしたことがあり、その対応についてメンションをつけられた相手(回答者)が対応していたということであれば、その心当たりを回答できるかもしれません。

つまり、一見情報量のすくない質問であっても、そのプロジェクト内で培われた情報の積み重ねと、各メンバーが担った役割から質問内容を省略することもできるのです。

こういった質問をするためには、質問者が「この回答者ならこの情報だけで回答できる」と認識できている必要があり、質問内容を省略してもよいと判断をくだせることが前提となります。

ただ、こういった質問の仕方に慣れてくると、ついつい省略すべきではない情報までも削ってしまうことがあります。特に正確な情報が必要となるような場合には、上記のフォーマットの内容がちゃんと質問者に共有できる質問になっているか事前に確認するようにしてください。

まとめ

IT初級者むけにすぐ実践できる「質問の仕方」のことを書いた記事は多くありますが、そこから一歩踏み込んだ内容のものをあまりみかけなかったので、今回は「質問のスキル」について考察してみました。

質問したらしたで無下にされるし、しなかったらしなかったで怒られるみたいなモヤモヤを質問する側がもっているのはわかります。質問はしているうちにどんどん上達していくスキルでもありますので、日々質のいい質問を考えて、ストレスフリーなITライフを送れるよう頑張ってください。

それではよい週末を。

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