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奇奇怪怪なる対話空間


Spotifyで配信中の『奇奇怪怪』というポッドキャスト番組がある。2023年4月までは『奇奇怪怪明解事典』という名前で放送されていた番組である。パーソナリティはTaitan(Dos Monos)と玉置周啓(MONO NO AWARE/MIZ)の2人。「日々を薄く支配する言葉の謎や不条理、カルチャー、社会現象を強引に面白がる」というコンセプトで基本的に毎週火曜夜に更新されている。


カルチャーについて語り合うポッドキャストは数多あるし、”日々の違和感“を切り口にした内容のコンテンツもよく見かける。しかしこの番組の中心にあるのはテーマそのものではなく、あくまで2人の対話なのだ。対象を語ることそのものではなく(その回のタイトルについた作品のことすらほぼ喋らないことも多々ある)、横道へと外れていく対話の展開にこそ真価がある。

あえて脱線するようなわざとらしい玉置の聞き間違えから毎回始まるし、罵詈こそないが雑言はビュンビュン飛び交うし、脊髄反射的応答の連発、やたらとハイトーンな笑い声だけが支配する時間など、2人よって作られる対話空間には固有のエネルギーが満ちる。意図的なエラーや単なる悪ノリが絡み合いながらエントロピーが増大し、思いがけない方向へと突き進んでいく。

私はこれこそが対話の面白さだと思う。Taitanの持ってきた話題に対し、玉置周啓がリアクションを返し、それを膨らませたり、蹴飛ばしたり、煮たり焼いたりとあれこれ加工していくこの過程。その再現不可能なやり取りは論じたり講じたりする上で準備する文章よりも遥かにスリリングであるし、結論ありきで進む一方通行のつまらない会話には生まれない昂りがあるのだ。

対話理論の創始者であるロシアの思想家バフチンは、対話が続く状況について「共通の理解や価値観が重なりあいながらも、けっして同一のものにならないこと」と定義している。理解や価値観が合致すれば対話が終わってしまう。決して混ざりはしないが、重なり合い、ぶつかり合いながら空間を押し広げていく「奇奇怪怪」とはまさに永遠に終わらない対話を体現している。


そしてこのポッドキャストは書籍化されている。再現不可能の対話空間が活字として残されているのだ。第1弾はずっしりとした事典の形態、第2弾は回し読み推奨の週刊漫画雑誌の形態。出版形態が"硬い"メディアから"柔い"メディアへと、2人の関係性が深まるのに伴って移り変わっていったことも、脱線こそがこの番組の本質であるということを示唆しているように思う。

活字で読むことで対話の面白さは濃く印象づけられていく。私は基本的にこのポッドキャストを風呂に入りながら聴いているので、ぼんやり捉えてる部分も多い。ゆえに2年前の放送の文字起こしの中に今こそ刺さるステイトメントを見つけ出せる。偶然性とリズミカルなテンポが中心を成す、この対話から立ち上がってくる発見と新鮮な気持ちで出会い直すことができるのだ。

ちなみに活字で読むとより雑談の長さが実感され、どんどん面白くなっていく。早く本題に入れよ!と半ば呆れながらも、その無駄話に入り込むように夢中になってしまう。読み進める内にくったくたになってしまう雑誌形態の第2弾。このヨレもまた、『奇奇怪怪』の対話空間を象徴しているように思う。愛着と乱雑さ、その両方が言葉に乗せて今日も放たれている。


最後に個人的な推奨回を5選。皆さんも是非、この開かれた対話空間へと。書籍化されていない2022年〜2023年のエピソードから選んでみた。


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