機関投資家の温暖化対策について
機関投資家が温暖化対策に逆行する企業に資金を向けなくなっている。ESG投資やインパクト投資は、ますます広がっていくと考えられている。
ポートフォリオに環境対策が優れている企業を組み入れる動きが広がり、それが資金を集める要因になる。それはいいことだが、そもそも機関投資家自身は、温暖化対策をしているのだろうか。
何かを作っているわけではないのだが、せめて、自社ビルで使う電力を全て再生可能エネルギー由来にすることくらいはできるだろう。下記の記事にあるように、不動産の管理会社の責任かもしれないが、働きかけることはできるはずだ。
そこで、上記の記事より、世界の運用資産規模トップ20の運用会社のESG戦略について、ポートフォリオにESG関連企業を組み込む以外に、自社で排出削減の取り組みを行っているかを調べた。
結果は以下の通りである。
BlackRock
・排出削減目標は、2020年までに従業員当たり45%
・2020年に100%再生可能エネルギーを達成
・社内にGreen Team という組織があり、社員に環境への意識を高めるために啓発を行っている
Vanguard group
・2021年に global operations で100%再生可能エネルギーを達成
・2025年に、 global operations でカーボンニュートラルに到達
・スコープ1,2,3の状況も公表している
State Street Global
・2020年に、スコープ1・2でカーボンニュートラルを達成する見通し
Fidelity Investments
記事中で、2040年までにネットゼロを達成するとしている。
JP Morgan Chase
2020年の始まりには、100%再生可能エネルギーにするとのこと。これは、ビル、支店、購入した電気からの間接的な排出、従業員の移動の排出も含んでいる。
Capital Group
目標を出しているわけではないが、スコープ1・2の排出量を2018年から掲載している。
Bank of New York Mellon
2025年までに2018年を基準として、20%減らす。
Goldman Sachs Group
2020年の終わりに、カーボンニュートラルと100%再生可能エネルギーの調達を完了した。
Legal & General Group
2030年から、operational footprint(オフィスとビジネスの移動)は、ネットゼロになる。
2050年までに、ネットゼロを達成する。
Prudential Financial
スコープ1・2・3の排出量は記載されている。
BNP Paribas
2017年の資料。BNPバリバは、低炭素システムへの移行の約束の1つとして、「Reaching carbon neutrality for the emissions arising from its operations」を掲げていた。
予想に反して、既に再生可能エネルギーを導入しているほか、スコープごとの排出量をサイトに掲載していた。
では、日本の機関投資家はどうか。
三井住友トラスト・ホールディングス
グループの中核企業の三井住友信託銀行では、2018年度において2013年度のピーク時よりCO2排出量を32%削減しています
三井住友信託銀行が新規に単独出店する支店ビルの屋上に太陽光パネルを設置し、発電した体制可能エネルギー電力を自家消費する方針です。現在までに3店舗に設置しました。
三菱UFJフィナンシャル・グループ
三菱UFJ銀行では、Co2削減について、長期目標では、「2030年度における電力使用量原単位(同上)を2009年度比で19.0%削減」としている。
日本生命
・2013年を基準とし、30年に40%減、50年にネットゼロ
第一生命ホールディングス
第一生命では、CO2排出量についてスコープ(1+2):2025年度50%削減、2040年度100%削減(2019年度比)、スコープ3※1:2030年度30%削減、2050年度100%削減(2019年度比)という長期目標を設定のうえ取り組んでいます
サイトでは、2015年からの実績を公開している。
アセットマネジメントOne
不明。責任投資の記事しか見当たらない。
野村アセットマネジメント
野村グループのグループ全体の目標で、どちらも2013年3月を基準として、
・2031年3月期 -32%
・2051年3月期 -65%
Macquarie Group
自社のビジネスオペレーションで、2025年までにネットゼロを目指す。
明治安田生命
CSR、責任投資への言及はある。また、環境問題への取り組みと題した資料があったが、削減目標には触れられていない。
信金中央金庫
不明。
住友生命
2030年には、スコープ1・2で40%削減(2013年比)、スコープ3では30%削減(2019年比)、2050年にはどちらの領域でもネットゼロを実現。
日米の機関投資家上位10社の削減目標を調べてみた。
機関投資家の削減目標を調べてみようと思ったきっかけは、「投資先に排出削減を求める側が、削減目標すら定めていない可能性があるのでは」と思ったことだったが、結果として、日米上位10社に限れば、半分以上が削減目標を定めていた。
私の予想は否定されたわけだが、責任投資を迫るなら、まずは自社でその取り組みを行っているのは当然のことだと考えるし、そのような機関投資家が多くて安心した。
大事なのは、これらの目標が今後達成できるかどうかだ。また、私が大切だと考えるのは、環境対策を進めたい・進めていこうとしている企業にも、資金を振り向けることだ。
石炭火力や環境破壊につながる企業への投資は悪だという世論が増え始め、それによって鉄鋼や石油に関連する企業は投資を受けられなくなる可能性が高まっている。ただ、悪だからと投資をやめるのではなく、現在は環境に悪影響がある企業でも環境配慮の取り組みをするのであればそれを促すことも、また、機関投資家の役割であるはずだ。
責任投資の「責任」には、持続可能な社会に貢献する企業に投資する責任と、これからそれに挑戦する企業に投資する責任が含まれているのではないか。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?