「ありのままの私を受け入れて」は傲慢? - 『傲慢と善良』 を読んで
以前から書店で見かける度に読んでみたいと思っていた本が、運良く図書館で借りられたので読んだ。
だいぶ厚みのある小説なので、貸与期間中に読み切れるか若干不安ではあったものの夢中で読み耽ってしまうほど面白かったのでサクサク読めた。
ストーリーの主なテーマは婚活だ。
ある程度歳を重ね、結婚を一度でも考えたことのある人にはズキズキ刺さる内容だと思う。
また、テーマは婚活であるが、私は就活でも似ている部分があると思う。
これについては以前にも書いた。
私を含む多くの人は、結婚相手に対してつい夢見がちになってしまうと思う。
王子様とお姫様の童話や、漫画、映画など、ありとあらゆるエンタメから結婚相手とは運命的な出会いを果たすという概念を刷り込まれているからだと思う。
トーストを齧って出かけた先でぶつかった相手…
同じ本を手に取ろうとして指と指が重なった相手…
ビビビっときた相手…
間違いメールから始まった恋の相手…
偶然何度も再会してしまう相手…
そんな運命的な出会いをどこかで期待しているし、
「きっと運命の相手なら出会った瞬間にわかるはずだ」なんて割とガチで信じている人も多いと思う。
実際そういった運命的な出会いを経て結婚に至っている人たちもいるだろうから、そこを否定するつもりはないが、大多数はそこまでロマンチックな出会いや大恋愛の末の結婚ではないような気もしている。
結婚適齢期に付き合っていた。
交際期間が長かった。
子供ができた。
一緒にいて気が楽だった。
転勤などが決まったタイミングで。
など、割と現実的・打算的な理由で結婚された方も多いのではないだろうか。
私は2度結婚しているが、どちらも運命的・大恋愛だったとも思わない。
1度目は人生の経験として結婚してみてもいいかな。
自分のことをこんなに好きだって言ってくれる人もそうそういないだろうし…
ー というなんとも消極的な理由。
結果として、そんなに好きでもない相手と結婚したことを後悔した。
大好きというわけでもない相手に家政婦扱いされることが嫌でたまらなくなり、家を出て別居の後離婚した。
2度目(現在)は、前夫の嫌でたまらなかった部分を完全にカバーしている相手であり且つ男前だからという理由。
この人の子供なら産みたいと思った。
両者とも元々友人だったり、仕事で知り合ったりしているので、自然な形では出会っている。
だから私は婚活というものは経験したことがない。
しかし彼氏が欲しかったときに全く良い人に出会えなかった経験や、理想の職場に出会えてない経験をしているので婚活の辛さは理解出来なくはない。
理想はふわふわと膨らんでいくのに、現実では理想に合致する人にはそうそう出会えない。
婚活でも就活でも、精力的に活動すればするほどその理想と現実のギャップに疲弊する。
そんな状況について、この小説で登場する結婚相談所の小野田が言っていたこのセリフがとても印象的だった。
結婚出来ないと嘆いている方々(勿論全員ではないが)は、たしかに自己を顧みずに理想ばかり大きい人がいる印象があるし、そんな人は傲慢だと思う。
そしてたいした努力もせずに「ありのままの私を受け入れて欲しい」なんて言ってるところには無知な印象すら受ける。
私の好きな「マッチングの神様」というオーストラリアの結婚リアリティーショーの番組に出てくる人の多くは同じようなことを言っている。
そしてそんな「ありのままの私を受け入れて欲しい」と言っている奴に限って、あまりにありのままの状態過ぎてうまくいかない。
気持ちは分からなくもないが、第三者目線で見る限り身勝手極まりない。
クセの強い食べ物は、ある程度下処理をしっかりするなり、煮込むなり、味付けを施さないと食べられない。
採れたて新鮮で、味付けをしなくとも美味しく食べられるものなんてごくごく限られた一部のものだ。
中にはクセがあるのが美味しいという変わり者もいるだろうが、さすがに毒は抜かないと健康を害してしまう。
ありのままの私のまま他人に受け入れようなんてめちゃくちゃ厚かましい考えだと、歳を重ねるごとに徐々に理解するようになってきた。
このように、本書では目立っている女子が『努力している女子』というような台詞があった。
外見を美しくする努力をする以上に、どんなに近しい人であっても言葉遣いや言い回しに気をつける、自分の機嫌は自分で取るのが大事だと感じるようになってきた。
つまり、棘や牙をありのまま剥き出しの状態で受け入れてもらおうなんていうのはお門違いだということだ。
恋愛が始まったばかりの頃は相手に嫌われたくないから、一生懸命好かれるように努力をする。
付き合いが長くなればなるほど、見た目に気を使わなくなるだけではなく、気も使わなくなっていってしまう。
そういった言動が度重なっていくうちに愛情が薄れていく。
ありのままの自分が出れば出るほど、どんなに愛し合った二人でも冷めていく気がしている。
私もかつては主人公の真実のように、着飾った一軍の女子たちを『嘘で塗り固めた恐ろしい存在』だと思っていた。
でも嘘も方便というように、相手を思いやるための嘘というかお化粧(見た目だけではなく気持ちの面でも)ってすごく大事だなと思うようになった。
なんとなく結婚に焦っている人、なんとなく就職活動をしている人は、いま一度、自分が何を欲しているのか、どう生きていたいのかじっくり考えて直してみたら良いのではないかと、本書を読んで感じた。
私は二度目の結婚もやめたくなっていた今日この頃だったけど、もう少し冷静に考え直してみようと思う。
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