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一月はヴェニスの水面のように反射して

2019年の一月が終わった。
僕の一月は、十二月に上演した『ヴェニスの商人』と地続きだった。いや、水続きだった、って言った方が正しいかな。勿論、そんな言葉があるわけじゃないけど。

『ヴェニスの商人』をつくりながら感じた水辺の景色は、思った以上に色とりどりで、もっと豊かだった。そして、その水の波紋は、一月にまで広がってきて、様々な景色の乱反射を見せ続けた。

あの時に生きてた登場人物たちは、今も、現実に、周りをうろついている。

友情に身を捧げ、お金を仇敵から借りては、
船が戻ってくるのかと冷や冷やし、
金・銀・鉛の箱選びに汗だくになり、
自分の夫はこの人でいいのかとハラハラし、
信じるものを胸に裁判を仕掛けては敗北し、
月夜に駆け落ちしてゴンドラに乗り、
それでも本当の愛はまだ見えず、
娘を盗まれた父親が涙を流したかと思うと、
一人の男が憂鬱を抱えながらひっそりと床に就く。

ベッドを愛で温めるもの。
ベッドを涙で濡らすもの。
夢が溢れて飛び起きるもの。

一月は、そんな光景を、水面に見るような時間だった。水面に映る景色は手に取れないし、触れられない。触れても、それは水だ。つかもうとすればするほど、水面に映る景色はぐちゃぐちゃになり、見惚れていた景色さえも、水面から消えてしまう。だから、僕は、水面に触れてはいけないんだ。そんなことを演出家として、再確認したりした。

シェイクスピアが書いた、ヴェニスの街にも、やっぱり触れられない。触っても、それは、演劇だ。ヴェニスは、そこにはあるが、そこにはない。シェイクスピアは、人生と舞台とを同じものとして扱おうとした。つかもうとしても、つかめない、いや、つかもうとすればするほど、消えてしまう、そんな水面のような時間形式を彼は愛していたんだと思う。ちょうど人が人生を愛するように。

一月は過ぎていく。それを生き抜いた気がしてるが、ただ僕は、水面をかき乱していただけなのかもしれない。それでいて、水面の景色が美しいから、演劇をつくることに夢中になる。

二月は、『ロミオとジュリエット』だ。ヴェローナの街は、そこにあって、そこにはない。イタリアのヴェローナは行き先ではない。シェイクスピアのヴェローナがこの旅の目的地だ。

疾走する初々しい恋が、僕のイメージを塀の向こう側へと連れいていく。

シェイクスピア「と」つくることは、シェイクスピア「で」何かをつくるよりも、はるかに自由で、はるかに面白いと感じている。

ああ、そんな話をしているうちに、ほら、二月が来たよ!

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公演日時:2月23日(土) 18:00、2月24日(日) 13:00
会場:シアター風姿花伝

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