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『自分で作るスタグルメ』Episode 0 レシピ本の覚醒

諸君!!!

スタジアムグルメは好きかーー!!!


アウェイで食べるご当地スタグルは好きかー!!!

試合直前に発表される限定スタグルは食べたいかー!!

寒さにも夏の暑さにも負けず、苦心の上で入手したスタグルはうまいかーーー!!!

カシスタの国境線でシミスポ警備員に怯えながら密輸してまでもスタグルが欲しいのかーーー!!

……。

はぁはぁ……。

すまない、私としたことが取り乱してしまった。スタグルと言われてもピンとこない人もいることを忘れていた。

スタグルとは、Jリーグのスタジアムで売っている食べ物や飲み物の事だ。「スタジアムグルメ」を略して「スタグル」と呼ぶ。

私はその魅力に取り憑かれてしまったのだ!!

みんなー!!私は、スタグルが好きだー!!!!大好きだー!!!

そんなことを叫びながらかなりマイペースでお盆と年末にスタグル再現レシピの薄い本を出していたら、なんと川崎フロンターレの天野春果さんの所まで届いてしまったらしく、このようなツイートまで頂戴してしまった!!!
川崎で個性的な企画を次々連発している、あの天野さんにだ!!
このような幸福がこの世にあっていいものか!心よりお礼申し上げる!!

スタジアムまでわざわざ観戦に行っても、どんな試合だったのかをすぐに忘れてしまうこともある(ジェフ千葉サポなんだ、お察し頂きたい)。でも、スタグルは「忘れない」。

私にとってスタグルは、単なる美食ではない。美味しいだけがスタグルではないのだ。

スタグルとは、サッカーとスタジアムを取りまく愛の記憶(メモリー)なのだ。

何を言っているのかわからない方もいると思うので、アルウィンで食べた山賊焼きと山雅ビールの話を紹介しよう。

それは2014年。私が夏休みを利用して1泊2日の日程で信州松本はアルウィンへ!いざ!初めて現地で見るアルウィンでのアウェイ戦に心弾ませながら赴いた時の事だ。

南アルプスの風に背中を押されながらバックスタンドの指定席に荷物をおいた。

目を閉じて精神統一。

よし、行くぞ。アルウィンのフードコートは戦場だ!!!

私が狙っていたのは、松本山雅のチームカラーの緑色に輝くビヤカクテル「山雅ビール」と松本の名物料理と言われ、鶏もも肉を豪快に油で揚げた、濃い目の下味がクセになると評判の山賊焼きだ。

まずは山雅ビールを入手した。緑色に輝く液体にプラコップの松本山雅のエンブレムが踊っている。

さて、次は山賊焼きであるのだが、ここで問題が起きた。

私はジェフ千葉の黄色いユニフォームを着ていたのだが……。恐るべき事に山賊焼きはホームサポーター優先であったのだ。

これが信州松本のやり方かー!!!

秘伝の山賊焼きの味つけは部外秘ということなのか!!

拗ねた。私は拗ねた。すっかり拗ねてしまった。家族がハーフタイムに山賊焼きを買ってきてくれたものの、試合が終わるまで上機嫌にはならなかった。

理不尽さに打ちのめされたことによって生じた心のモヤモヤは収まることがなかった。

試合後は現地の飲食店で山賊焼きを食べた。食べまくった。信州松本など食い尽くしてやる!!

どのくらい食べたかは覚えていない。松本は私の胃袋を怒らせてしまったのだ。

試合は確か0-3か1-3くらいで負けたような記憶がある。スタンド裏でハーフタイムに打ち上げられた花火が余計にイラっとさせられたのも思い出だ。

その翌週。

悔しかった松本の思い出はまだ癒える事ない中でふと思いついた。

「山賊焼きって自宅でも作れるんじゃないだろうか?」

ちょうど会社は夏期休暇となっていたので十分な時間があった。

ネットで作り方を調べ、スタジアムで食べた味はニンニク濃いめだったなあ……。などと思い出しながら、自宅で作ってみることにした。

だって、自分で作るなら待ち時間も個数制限もホームもアウェイもないじゃない?

自分で作ればいいのよ。

自分で作ればお腹いっぱいになるまで食べても誰にも文句は言われないし、好きな時に好きなだけ食べられる!

かくて、鶏もも肉を買い込んでニンニクの濃い醤油ダレに漬け込んで、大きな山賊焼きを自宅の台所で焼き上げた。

山賊

すごい迫力だ。それほど大食らいではない二人暮らしなのでこれはたっぷり明日もアディショナルタイムを楽しめる量だ。

私は片栗粉のこんがりサクサクな衣を噛みしめた。そして、中から溢れ出る肉汁の勢いに負けないように一気に頬張った。そんな私を見て家族はこう聞いた。

「自分で作れて良かった?」

私は反射的にこう答えた。

「自分で作るのって……。楽しいかも!」

それが、スタグル本の最初のきっかけとなった。

話は変わって、私は「ツバキハウス」という同人サークルを1990年から続けている。今年で31年目だ。

同人サークルは、主にお盆と暮れの年2回行われる世界最大規模の同人誌即売会「コミックマーケット」や、その合間に行われる他の即売会に新刊の同人誌を発表して、来場者に頒布している。

だから、私にとって「コミケが来るから新刊を出す」は「お正月だから年賀状を出す」くらい自然で当たり前の事だった。

やがて2015年に何か自分の同人誌を出す作業を始めよう。と思った時に最初はオリジナルの漫画でも描こうと考えていた。
一応以前商業イラストのお仕事を頂いていた事もあったし、日本漫画家協会の末席にも所属しているのだ。

しかし、年初にまさかの交通事故で右手を負傷。

日常生活はまあ問題ないし、マウスを握ったりタイピングも問題ないけど、漫画を描ける状態に持って行くのはちょっと難しそうだ。

どうしよう、漫画が描けない。新刊が出せない……。

待てよ、山賊焼き作ったじゃん……。
スタジアムグルメを作って、レシピを本にすればタイピングとデザイン作業だから右手の負担も軽くて済むし。
レシピを同人誌にしたら需要ある……?
どれくらい売れるかな……??

同人歴が私と同じくらいの友人に相談してみた。

「サッカーだけど料理本だしね。初手は100部か150部で様子を見たら?」

ケガの影響でその夏のコミックマーケットの申し込みも出遅れてしまったので、本が出たらその友人と、もう一人の友人のサークルに委託頒布として置かせてもらうことになった。

スタグルにはそれぞれの物語がある。
スタグルを作る人の物語。
スタグルを売る人の物語。
スタグルを買う人の物語。

私は、物語の全てを再現する力はない。

しかし、私にも出来ることはあるはずだ。

レシピ本を作ろう!ただのレシピでも、スタグルのレシピなら特別なものになるはずだ。なぜならスタグルには思い出が詰まっているからだ。

スタグルの再現は地道な作業だ。

まず、スタジアムのホームページでスタジアムグルメの情報を探す。

調査に基づき、当日は効率良くスタグルを買いあさる。

買ったスタグルは必ず写真で記録する。

お店の看板の写真やそこに書かれている宣伝文もしっかり写真に残しておく。

それから座れる場所か席に戻ってゆっくり食べる。

食べながら味付けや中に入ってたものをスマホのメモ欄にガシガシ記録して行く。

隣の席の人が見たら何かと思う光景かもしれないけれど、これはガチで取材なんです!!

そうして帰宅してからそのスタグルに近いレシピを調べて、それに当日食べた時の味のアレンジなどを加えた「仮レシピ」をざっくりノートに起こす。

それを元に試作を作ってみる。

上手く行けばそこで撮影を行い、試食して「これだ!」と思えばそのまま本に載るレシピとなるが、「違うな……」と感じたら修正版を試作してまた食べる。これを繰り返す。

そうして出来上がったレシピと再現スタグルの写真をInDesignというソフトで編集して、一冊の本にまとめ上げて行く。

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表紙は敢えてシンプルに、表紙に載せる絵はスプーンとフォークのみで「食べ物の本」と分かるようにしよう。

もしこの本のレシピを見て作りたくなった人がスーパーに本を持って行っても悪目立ちしない、見た目が普通の本のような装丁にしたいな。

そうだ、裏表紙はこの本に載っているメニューのお品書きにすれば何が載っているかわかりやすいよね……。

表紙は、友人が勧めてくれた厚手のエンボスコートアラレ紙を使ってちょっと変化をつけよう。

試行錯誤の末に、本が出来上がった。

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再版はしないつもりで150部。果たして、コミックマーケットの55万人の来場者にこの本は受け入れられるだろうか……。

友人のサークルを訪ねた。
彼女は自分の本の切り盛りで目一杯の状態で慌ただしい中

「なんかね!スタグル本結構売れてるよ!これ完売するんじゃないの?!」

とこちらも見ずに次々と空になる段ボール箱をたたみながら答えた。

かくて。

「自分で作るスタグルメ(一)」はほぼ大半を売り切ってコミケを終えた。

そうして「コミケで面白い本見つけた」「自分でスタグルが作れる本?欲しいな〜」そんな声をチラホラとツイッターで見かけるようになった。

……あれ。ひょっとして成功した??再版した方が……いいかしらん?

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そうして始まったスタグル本。おかげ様でシリーズは7巻まで、スピンオフ4冊と限定コピー本3冊を出して足かけ7年目のシリーズに至っている。

スタグルは、旅の記憶を強く補強してくれる。

あの日、寒い中で食べた汁物の温かさ。

暑い日に食べた辛い味。

小腹が空いた時に口にしたスイーツの甘味。

そして、なんとなく試合観戦の時は10倍美味しく感じるビール!

あの時、あそこでアレを食べたよね。結構美味しかったな。

あそこのアレはちょっとイマイチだったから次来た時は別のものを食べたいな。

試合の結果は覚えていないけれど、旅の思い出とあの味は今でも忘れていない。

やがて、年2回出していった本がずいぶん増えた時に気が付いた。
これは間違いなく、レシピ本であると同時に「私の食べ歩き帖」だと。

シーズンアウェイ全通!とか出来るほど時間も経済的にも余裕がない。

なのでペースは比較的ゆっくりだし、対戦する機会がなかなかない仙台のスタグルの取材と紹介はもっと先になるかもしれない。
(ベガルタ仙台さんとはいつ対戦が叶うのでしょうか……?)

だけれども。
普通のご当地グルメだけでは終わらない「サッカーと旅と食の物語を持った一皿」がスタグルとも言える。

私はそれを愛しているから自分のことは「スタグル研究家」とは名乗らずに「スタグル愛好家」と呼んでいる(平野レミさんが「料理愛好家」と言っているのに近い)。

スタグルは人を選ばない。誰でも歓迎だ。

なんなら試合を見なくても外の屋台村で食べて行くだけでいいというチームさえある。

そして、スタグルには関わった人や食べる人の数だけそれぞれの物語を持っている。

私は、そんなスタジアムグルメの世界や、そこで感じた「物語」をレシピと写真という形で掬い上げ、本として形に残せたらいいと思いながらまた次のスタグル本のネタを考えている。

諸君、スタグルは好きか!!

私は大好きだ!!

あの暑さをモノとしない炎天下の鉄板で焼かれるソーセージが好きだ!!

器になみなみと大鍋からおたまで注がれるモツ煮が好きだ!!

香ばしい炭火の匂いをまとって串に刺された牛肉が好きだ!!

地元農協とコラボして供される地元の季節の果物が好きだ!!

工夫を凝らして早業で注がれるオリジナルのドリンクが好きだ!!

そして喉を潤すビールはたまらなく好きだ!!


私は、スタグルが大好きだーーー!!!


スタグルが好きな同志とそんな事を語れたら、と思い、この所信表明をしたためている。

拙い文章だけれども、これから「スタグル」と「食ベる事」が持つ魅力を少しでも皆さんにお伝えできたら、と思う。

私は、今までOWL Magazineにオムニバス記事の参加者の一人として参加していた。
これからは主に「スタグル」や「食べる事」とその喜びに関する記事を月に何本か寄稿して、読者の皆様が読むだけでお腹ペコペコになるような記事をたくさんつづって行きたいと思う。

そして、OWL Magazineは2021年から……!!!

エッセイ中心のスタグルを扱った本が……!
OWL Magazineの皆が腕をふるって様々な内容をご用意できるよう書籍を鋭意準備中!
乞うご期待!!

なお、この記事は無料記事ですが、他に面白い記事がたくさんあるので
皆さん是非ご購読ください。
↓こちらから↓
https://note.com/owlmagazine/m/m1570497e1bdd

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でよろしくお願いいたします!

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