「三日月」

 今日仕事終わりに、自転車で帰る途中に三日月が僕を見ながら付いて来る、待てよ、僕が追いかけてる、どっちでもいいや、走って色んな角を曲って家路に着く僕にはどっちでも良かった。

 家に着いて君とよく飲んだクラフトビールをベランダで飲みながら夜の空を見上げた。
東京の夜空でも見えているかな、君も見てるならどんな風に見えてるかな。
彼女は忙しくしているだろうし、ましてや夜の空を見れているかも分からない。

 君と歩いた河原の水面に三日月が映ってたあの夏の日に「好きだよ」と言えれば良かったけど、「綺麗な三日月だね」と声を掛けるのが精一杯な僕が居た。

 あれから何年経つんだろう、あの日の君の横顔を今でも思い出す。
僕は地元を離れられなかったと言うのは建前で、家族の事で離れるわけには行かない事情を伝えられずに旅立ってしまった君。

 あれから何年経つんだろう、あの日の君の横顔を今でも思い出す。東京のビルの谷間から覗く三日月を君もクラフトビールを飲みながら眺めたりしているのかな。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?